岡崎 ところで、深川ってどういう町?
喜多 江戸時代からの下町エリアのひとつ。店が有る場所は江東区森下ってとこ。大都会でもなければ、若者カルチャーの発信地でもないし、あまりファッショナブルでもない。目玉になるような店や施設こそ無いけれど、飲み屋は定食屋は美味しいとこ多くて、風景も下町風情がある。隅田川が近い事が、漁村育ちの僕には居心地いい理由のひとつかな。下町は早口でせっかちな性格の人が多いけれど、慣れると温かい雰囲気が有ることに気づくよ。
岡崎 僕が前に歩いた場所は?
喜多 そこは清澄白河。森下の隣。僕がいま住んでるとこ。
あの辺りは、最近、古い建物がリノベーションされて、通りの雰囲気がお洒落になったね。
岡崎 あ~、よかったよね、あそこ。
喜多 そうそう、公園もあって、ギャラリー多くて、元々住むにはいいなって思ってて。東京に来た時は店の近くに住んでたんだけど、今年、プライベートで色々ありまして(笑)
岡崎 うんうん(笑)
喜多 で、引っ越さなきゃいけなくなって、それなら元々住みたかった清澄白河に住んじゃおうって。
岡崎 落ち着いててあったかい感じのいい町だよね。
喜多 善くも悪くも若者が少ないけどね(笑)大学が無いからかな。駅前で溜まって騒いでる人とかは見たことない。治安は良い気がする。これからもっと面白くなりそうな町だと思う。
岡崎 都心とか家賃の問題もあるんだろうけど、そういうの関係なく最初から東側がよかった?
喜多 最初、江東区は都内でも家賃が安いほうだと思いこんでたんだけれど、後から調べたら、森下はそんなに安くなくって(笑)交通の便がいいからかな。
あと、東京での商売って、それなりに場所のイメージって重要じゃない?徳島でいた時は北島で出そうが、駅前で出そうがどこで出しても一緒って思ってたの。駐車場さえあれば。でも、東京に出店する前に知り合った人としゃべってて、アドバイスもらって。例えば神保町で店を出したら神保町の古書ドリスっていわれるようになると。それが合うかどうかだと。今、東京で新しく古本屋をやる人が多い街は、下北沢か西荻窪だと思うんだけれど、例えば西荻窪は古本屋や雑貨屋が多くて良い街だけれど、西荻窪の古書ドリスっていうのは想像できないって言われて(笑)まあ人気エリアに出店する度胸もなかったし。
そういう意味でもあんまり色のついてない町がよくて、かといってあまりも都心から離れると何の為に東京に出てきたのかわからなくなるし。そのバランスをとって、深川は何でも受け入れてくれそうな懐の広さも感じて。
岡崎 なるほど。色がついてないとこに行きたかったんだね。
喜多 そうそう。でまぁ古本屋さんはここ2年くらいで増えてきてて。結局が僕が店を開いてからまた(古本屋が)増えて今6軒あるから。結構古本屋がある街としてもいいのかなってね。
岡崎 喜多君以外に昔からやってた人もいるし、新しく来た人っていうのは比較的若い世代の人?
喜多 うん。あと昔からの人っていうのもここ3~4年だから、元々はそんなになかったらしいんだけどね。だから地元に住んでる人からしたら、なんでこんなに古本屋が増えたのかしらって言われたりしてるよ。地元タウン誌で古本特集とかとりあげられたり。
でも古本屋はまだまだ認知度もなくて。だからさっきも言ったけど色々やっていければね。この週末に開催する「一箱古本市」っていうイベントの主催者の人は商店街の方で店をオープンした人で。そういうとこから頑張って色々外からも人を呼んで、ここは古本屋が多い町なんですよって伝えようと頑張ってくれてる。
喜多 だから僕も色々協力したいって思ってるよ。やっぱり、イベントとか人を呼ぶ努力はしないと。
岡崎 そっか~。ここ選んで良かったね。
喜多 うん。でもやっぱり高い本とかは神保町ならもっと売れるんだろうなとかは思ったりする(笑)。
岡崎 例えば将来的にここから店を動かしたりっていうのは今のところは全然考えてないでしょ?
喜多 一時期は考えたけどね。もっとにぎやかな場所がいいのかなとか。けど最近展示をやった時、関係者に、店が落ち着いた環境にあるから、そういう場所じゃないとこういう展示は難しいですからって言われたりして。だったら僕は繁盛店をやるのは無理だろうから、商業地とかよりも、もっと隠れたところでやってく方が自分的にはいい環境なのかなって思ったりする。今はこの店でできることを色々試して、何もかもやりきったと思ったら移転とかは考えようかなっていう感じ。
岡崎 まさに、僕もそれは思うよ。僕は洋服のこと以外はあんまり分からんけど、結局その、なんて言うんだろう。さっき言ってた繁盛店っていうのが洋服に関して言えば昔ほど露骨にないというか。これやってたらって安心っていう流行りが今はもう無くて、結局自分のスタンスでしっかりやっていってるお店が今は強いんじゃないかなって。洋服のお店、まあ地方のお店も然り、都会のお店もそうだけど、やっぱり喜多君みたいなスタイルでずっとこつこつお店を作ってやってる人のほうが強い時代なんじゃないかなとは思うけど。
喜多 やっぱり徳島でやってたから、お客さんがゼロの日が普通で、お客さんは黙ってたら来ないもんだって思い知らされた(笑)それって今後、客足が伸びてもずっと思うだろうし、危機感としては常に残ってる。だからあんまり楽観的じゃないというか。なんというか、正直このまま現状維持してたらウチは潰れると思ってて。他の店のやり方は知らないけれど、ウチの場合は。だからネットなんかを使って色々と積極的にやったりしないと。
岡崎 いやわかる。凄いわかる。実店舗を構えてる以上は足を運んでもらわないとやっぱり意味ないし、運んでもらうためにこっちからどういう提案ができるんだろうっていうのは常に考えておかないと店構えてる意味もない。
喜多 お客さんを見ながら続けていくのが大切だから。ホントもう、すごいカルトな尖った店とか、カルチャーをここから発信してます、とか言ってた店が、ここ最近でどれだけ潰れていったか。
岡崎 ホントにね。
喜多 何ともいいがたい気持ちになるよね。もし流れに乗れてうまくいったとしても、そんな時こそ謙虚にいこう(笑)
岡崎 (笑)
喜多 調子に乗った時こそヤバイんだろうなと。
岡崎 店でずっといるでしょ、喜多君。休日とかは何してんの?
喜多 最近はアルバイトもいるから(店を)空けたりもしてるよ。ギャラリーとか見に行って、そういう所で偶然出会った人と繋がってイベントや展示に繋がったりもあるわけだから、外へ出るっていうのも重要かなと。
あと仕事で古いものを扱ってるから、休日は最新のアートやデザインが観たくなる。でも店を営業してる日は、なるべく自分がいたほうがいいと思ってて。
岡崎 すごいわかる!
喜多 僕なんかと話しに来てくれる人もいるし。結局やっぱり誰かに任せっぱなしにはできないよ。
岡崎 僕も出来ないと思う。
喜多 色んな人が来て教えられることだってあるから。どれだけ店が変わっていったとしても自分がそこに居なきゃだめだなって。そこが面白いけど、ちょっと辛いとこでもある。
岡崎 いや~、まさに。
喜多 任せたいけど、任せられないみたいなね。
岡崎 僕も今スタッフ募集してるんだけど、その理由の一個として、この前喜多君の所へ行ったのも結局一時間足らずしか居れなくて、せめて展示会の時は色んな物ゆっくり見たいなっていうのもあって。人探したり、育てたりするのに時間がかかるから今のうちから探してるっていうのもあるんだけど、基本的には僕も店に立ってないと意味ないっていうのは思ってる。
やっぱり店にいなきゃ分からない事があるし。ヒントみたいなのをお客さんが出してたりするから。僕が現場を離れることが今はまだ怖い。
喜多 そうだね。僕の場合は接客っていうより、たまに会いに来てくれる人っての為にも(店に)居なきゃなっていうのがある。
岡崎 やっぱり人に人がついてくるっていう大前提はあるよね。
喜多 ネガティブすぎなのかもしれないけど、もし古本屋が成り立たない時代になって、僕が古本屋をやめたとしたら、古本にしか興味がない人との関係はその時点で終わるじゃない。そういう不安はずっとあってね。例えば、Amazonが中古品の流通の常識をひっくり返すようなサービスを突然始めるかもしれない。そういう場合に備えとかなきゃとか。今展示をやってるのもそこからきてるんだよね。たぶん。たくさんの人との繋がりだけは、それだけは財産として持っていける。貯金がたくさんある事よりも、経験とか人との繋がりのほうが、後に生かせる財産だったりするわけで。
岡崎 それは絶対。で、そこらへんは昔っから思うんだけど喜多君はしっかり考えてるよね。
喜多 僕はただ心配性なだけ。今もまだ古本屋の経営の仕方がわかってない(笑)けどやっぱり本は捨てられない。本を一冊も扱わない仕事っていうのはイメージにはないな。
岡崎 ドリスからで委託させてもらったのもそうなんだけど、やっぱり今って洋服屋さんが洋服だけ売ってバンバン物が売れてうまくいくっていうお店も少ない。最近思うのは、得意分野をまかせてしまおうって。例えば本は本で喜多君がいるしなとか。いろんな人の気持ちとか考え方が一個の店に混ざってるほうが格好いいんじゃないかなって。
喜多 それはすごい面白い話なんやけど、服もあるし、石けんもある、レコード置いてますけど基本ウチは服屋ですみたいな。結局ドリスはギャラリーとは名乗れないわけよ、おこがましくて。ギャラリー兼古本屋とも言わない。今のドリスは古本屋だと。ギャラリーみたいなことをやらせていただいてますけれども、ウチは古本屋です、というようなのが一本ないと。例えば、色んな場所でやって、ライフスタイルを売りにして、職業=私です☆みたいなのは信用できない(笑)。時代の流れに沸いた泡みたいな気がしてならない。
岡崎 最後に都心以外の人に知ってもらう為にやってる事とかってある?
喜多 WebストアやTwitterはやってるけど、今後は東京以外でも、何かやっていきたいとは思ってるよ。それこそずっと徳島でやってきて、徳島にもお客さんはいてくれてるし。そのお客さんたちの事を忘れたって訳ではない。
すごく心残りなのは、東京に移転する直前に体調崩してしまって。あの時、忙しすぎて倒れちゃったの。それで徳島の閉店がグダグダになってしまって、ちゃんと挨拶出来なかった人も多いんだよね。だから、前にSLOW&STEADYでやったみたいな事を徳島でまたやりたいな。
岡崎 やろうよ!ていうかSHOP in SHOPとか面白くない?
喜多 それやってみたいな~。
岡崎 うちの店の半分ぐらいのスペース使って。『数日間ドリスが徳島帰ってきます』みたいな。期間限定で。
喜多 いいね、いいね。
岡崎 喜多君が接客して(笑)
喜多 やろう。大まかにテーマを決めて。
岡崎 じゃあ決まり。やろう!そこらはドリスが帰ってきたって来てくれる人も多いだろうから、がっかりされないように、喜多君セレクトで良いと思うよ。
喜多 やりましょう!
岡崎 うん!僕も含め、うちのお客さん達も刺激になって面白いだろうし。勉強にもなるし。じゃあ今年も残りちょっとやけどお互い頑張りましょう!
喜多 頑張ろう!
※そんな訳で『DORIS in SLOW&STEADY』
日程や詳細は追って告知いたします。
【対談:2014.12.07】
古書ドリス
幻想美術と幻想文学、耽美主義の思想と芸術、エロティシズム、魔術など、異端とされる分野の古本が品揃えの中心です。カルト映画のDVD、アバンギャルド音楽のCDやLPも取り扱っています。銅版画、人形、写真等の展示販売も定期的に行っています。
http://www.kosyo-doris.com/