S&S / BLOG Dec 19, 2020
Text:OKAZAKI MASAHIRO
いつどんなことが起こるかわからないからこそ、僕らは表現者であり続けたいと思います。彼女の手が紡ぐ奇跡をご体験ください。
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先日入荷した当店新ブランド Isabella Stefanelli (イザベラステファネッリ)2016年にスタートしたブランドではありますがブランド側の意向により詳細画像や価格は伏せますが、当店なりにこの謎に包まれたブランドの魅力についてお話していこうと思います。

Isabella Stefanelli

デザイナーは南イタリア出身
テイラーであり画家でもあった父を持つ彼女は5歳の頃から針と糸を手に持ち父親の手伝いをしていたそうです。
その後イタリアはマルケ州中西部の街ウルピーノにて学生時代を過ごしファッションを学びます。
卒業後はミラノに移り、演劇のための衣装やプライベートカスタマーのための衣装製作をして技術を磨きます。その後名だたるブランドのデザイナーを歴任し2016年、自身のブランド Isabella Stefanelli をスタートさせます。糸の選定から織構造の構築にまで至る生地開発、パターンメイキングから縫製、仕上げまでを自身でデザインする彼女によるコレクションは、土台となるその背景やコンセプトの上に立つことでより美しく力強いものとなり唯一無二の存在感を放ちます。

 “Sunset at 16:15”

2020年1月のパリ・ファッションウィークにて発表された9回目のコレクションは “sunset at 16:15” というタイトルが付けられました。自身のアトリエで彼女自身が織機で生地を織っていく中での閃きや気づきを、生地の質感や色調に落とし込み、それと同時に新しいコレクションのテーマやストーリーたちに輪郭や温度を与えていくという過程を経て彼女のコレクションは生み出されます。

今回のタイトルはそうやって名付けられた各コレクションの中でも、とても彼女らしい名前をつけられました。ひたすらに自身と向き合う繊細で張り詰めたときにふと見上げた織機越しに見えた夕陽の美しさに感動し、同時に世界中でみんなそれぞれの夕陽があることに想いを馳せることで穏やかな気持ちになれたこと。そしてそれをきっかけに、手旗生地で朝陽(サンライズ)、夕陽(サンセット)、フルムーンという色彩を英国の伝統的な柄のグレンチェックで表現しようと試みたのがこのコレクションのはじまりです。「16:15」 はそんな冬の日のイギリスでの日の入りの時刻です。

紡がれる物語

Isabella Stefanelliの洋服の特徴として各アイテムに実在した人物の名前がついています。代表モデルの Virginia (バージニア)というのは20世紀モダニズム文学を象徴するイギリス出身の小説家である評論家のヴァージニア・ウルフ。その他、19世紀初頭のイギリスのエンジニアであり当時では珍しい大型の蒸気船や鉄道や駅舎のデザイン・設計などに取り組み後世に影響を与えたことで知られるイザンバード・ブルネルや、みなさんもご存知、20世紀を代表するアメリカの画家・版画家・芸術家のアンディーウォーホールなど。

洋服一点一点に付属されているタグにはその人物たちどのようにイメージし洋服に落とし込んでいるかが記載されています。

生地が体を包む

イザベラの洋服を始めて見たとき洋服というより生地を見ているような感覚になりました。生地に襟がつき、アームホールやボタンがついている。そんな感覚でした。

手機で織られた生地や老舗生地メーカーのもの…様々な生地がラックに美しく広がっているように見えました。うまく伝えられないのが残念ですが、テーブルにおくとただの生地に見えるんです。でも着るとその生地がまるで生き物のように体に合わせて広がってくれる。生地が体を包んでくれる感覚というんでしょうか。

徹底的にシンプルで削ぎ落としたミニマルな作りの中に、彼女の手でしか作り出せない奇跡的なパターンや卓越した縫製技術を余すところなく詰め込むことで本当に命を吹きこまれているんじゃないかと思ってしまうほどに..

何がどうなっているのか分かりませんでした。ただただ、全身に鳥肌がたち、この意味のわからないモノに心から震えたのは鮮明に覚えています。

当店の役割

飾り立てたりデザインを入れることでかっこよく見せたり個性を出すというのはある程度キャリアのあるデザイナーであれば可能だと思うんです。ただ、その逆を突き詰めるイザベラのような洋服はある意味一切のごまかしが効かない。本当に一握りの人しか作ることすら許されない領域ではないでしょうか。

培った技術を手に宿しながら精神をすり減らし極限まで自分を律して真摯に洋服と向き合うからこそ生まれる洋服。それがこのIsabella Stefanelliというブランドだと当店は考えています。

「心から感動してしまったから仕方ない」

店にイザベラを見に来たお客さんたちに僕がまず最初に話すこと。「かっこいい」「好きだな」ってのはたくさんあるけど、洋服に心底感動を覚えるなんてのはそんな多くない。その数少ない感動した洋服を紹介できない洋服屋なら僕はこの仕事をする意味がないと思っています。

素晴らしいと思う洋服を当店のフィルターを通して一つの箱にまとめる。僕らは洋服を使って店を造り、自分たちを表現する。デザイナーではないですが、少なからず表現者の端くれであることに変わりはありません。僕の大好きな表現者は皆、状況に合わせて妥協なんてしていない。だから仕方ないんです笑。

それを誰に伝えてどう販売するかなんてのは後から考えたらいい。まずはこの感動を少しでも多くの人へ届けたい。それだけの理由です。今まで以上にハードルは高い。誰しもが手にできるものではありませんが、これを期に洋服への考え方が変わる人もいるはずです。

こんなときだからこそ

今年生まれたコロナの渦はまだまだ勢いを増しています。毎日が不安でたまらない人もいるだろうし、もういいやって気にしていない人もいるでしょう。でもこんな時だからこそ新しい価値観や考え方が生まれるはずです。僕自身、もしコロナがなければ思い切ってこのタイミングで取り扱っていなかったかもしれません。

明日、自分や周りがどうなるかわからない。だからこそ今まで以上に本気で大切にしたいことを大切にできるような店でありたいと心から思ったのは事実です。

刹那的な洋服が大部分を占めるなかで、本当に次の世代へ残していきたいと感じるもの。その最たるブランド “Isabella Stefanelli” ここで色々書いても伝えきれないので、興味がある方はまずご体験ください。

この記事を書いたひと
岡崎 昌弘OKAZAKI MASAHIRO | at_slowandsteady
1981年生まれ SLOW&STEADY 代表。18歳の時より地元の古着屋へ勤務。その後同じく県内のセレクトショップ勤務を経て2013年「SLOW&STEADY」をオープンさせる。ブログとは別で文章形SNS『NOTE』にて洋服にまつわる記事を毎日更新しています。 『NOTE』 https://note.com/slwanstdy
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