※これは店長岡崎がnoteというSNSで連載している『僕の洋服物語』というマガジンの記事からの抜粋です。
中学3年生の頃に同級生の影響で洋服の魅力に取り憑かれ、今に至る(41歳)までに体験した『洋服』をはじめとした『モノ』にまつわるアレコレ。
自分の価値観を形成するうえでターニングポイントとなった『私と”モノ” との記憶』いわばモノにまつわる物語を書き綴る日記。読んだあなたが、少しでも洋服を好きになるきっかけ、自分の使う道具を愛らしく感じてもらえるようになれば嬉しい。
「僕の洋服物語より」
『FRANK LEDER Thick Vintage Loden Jacket Side Pocket』
先日大量に入荷した当店のメインブランド、ドイツのフランクリーダーの秋冬商品。正直、入荷アイテムを全て書きたいぐらいウズウズする素晴らしい商品ばかりなのだが、その中でも私がたまらなくストライクなジャケットを今回は紹介する。
〜歴史を垣間見ることができる素材〜
このジャケットと同素材のコートには “ローデンウール” と呼ばれる滑らかで肌触り抜群のウール素材が使用されている。ひとまず素材の説明から始める。※コートは入荷後すぐに完売しました。
:ローデンウールとは?
ヨーロッパアルプスの厳しい寒さの中で生き抜くために生み出された、高密度に織られた圧縮ウール素材。世界的に普及したのは1950年以降だが、生地の歴史は非常に古く、16世紀にその発祥の地であるオーストリアのチロル地方、ローデレス村にちなんで名づけられたとされている。
ローデンウールの繊維には天然の羊毛脂が豊富に含まれているため、毛玉になりにくく、耐水性、透湿性に優れ、シミや汚れに強く、また環境に優しい素材。独自のしっとりした柔らかさを併せ持ち肌触りは申し分ない。着用を繰り返す事で生まれる経年変化も魅力。まさに歴史と伝統を持つ素晴らしい生地である。
〜 バランス感覚の才能 〜
今回のジャケットに使用しているのは、デザイナーのフランクリーダー自身がドイツ国内で見つけてきた古いローデン生地である。やはりビンテージ特有の独特の風合いがたまらない。
この重量感のある“生地の厚さ”もまた、フランクリーダーらしいというほかないのだが「自分で馴染ませてください」と言わんばかり。
同時に、使われている30mmのボタン。通常であればもう一回り小さくても良いのだろうが、やや大きめのサイズのものが使われている。この大ぶりかつ、雰囲気抜群のボタンがシャープすぎない絶妙の愛らしさと、どことなく不器用な印象を演出している。
入荷後、何度も袖を通しているが、ベーシックで誰でも着れそうなシンプルなデザインなのに、夢に出てきそうなほど強い印象を刷り込んでくる。この辺のバランス感覚こそ、このブランドの真骨頂であり、まさに絶妙としか言いようがない部分である。「カッコつけないかっこよさ」とはこういうことなのだろうといつも考えさせられる。
〜 いつも心が躍るのはなぜだろう 〜
このブランドの洋服に、いつも心が踊らされるのは何故だろう?
圧倒的な物語、素材、人が袖を通すために作られた素晴らしいパターン技術と普遍的でベーシックな空気感。そんなことはもう十分に知っている。
だが、“心が躍る” “踊らされる” のはきっとそこじゃない。
結局のところは細かく説明できない部分。
自由な余白が残された洋服なのだろうと解釈している。
大きなボタンを見て「不器用だ」と先ほど私は表現したが、それもまた人それぞれが自由に感じることができる余地、余白なのだろう。
着続けることで自分だけの物語が脳内で立ち上がってくるモノ…
まさに、何度も何度も読み返し、その都度新しい発見をくれる小説に近い感覚なのかもしれない。
このジャケット然り、フランクリーダーの洋服に触れたら、いつだって私は新鮮で胸が躍り熱くなる。どれだけボロボロになっても決して手放せない大切な道具になりえる素晴らしい洋服たちである。