
最近では、僕自身が直接文章を書く機会は少なくなり、過去のブログを遡っていただくか、メンバーシップ限定の記事でご覧いただく形が中心となっています。
先日、半年に一度のフランクリーダーの大量納品があり、いつも通りたくさんのお客様に見にきていただきました。顔ぶれを見ていると古くからのお客様たちに加えて、若いお客様も随分と多くなりました。そんなわけでなので、久しぶりにこのブログにて僕の「フランク愛」をお届けしようかと思い、この記事を書いています。
少し感情的な文章にはなると思いますがお付き合いください。

十三年前、一着のシャツとの出会いが、僕自身の人生の軸、そして店のあり方を定めてくれました。
そのブランドの名は、フランクリーダー。
開業準備に追われるなか、僕は憧れのブランドであったフランクリーダーの展示会へ足を運びました。
資料を手に緊張しながら、代理店を務める長谷川氏にお伝えしたことを、今でも鮮明に覚えております。
「徳島で自分の店を立ち上げようとしています。洋服しかしてこなかった人生ですが、恥ずかしながらフランクリーダーの洋服はまだ一着も持っていません。ただ、このブランドを自分がこれから着て、届けていきたいと思っています。」
そうお伝えしたとき、返ってきたのはひとこと。
「まず見て、着てみろ」
目に留まったのは、60年以上前に織られたアンティークベッドリネンを用いた、レギュラーカラーのシャツでした。
新品の状態では非常に強いハリがあり、第一印象として「これは着心地が良さそうではないな」と感じたのが正直なところです。
すると長谷川氏は、ご自身が着込んでいた同型のシャツを私に手渡し、
「新品じゃわかんねぇ。これ、着てみろ。」
と促してくださいました。
袖を通した瞬間、まるで別の服を着ているかのような感覚を覚えました。
滑らかで品がありながら、確かなコシと力強さも備えており、全体にうっすらと入った自然なシワには、時間の経過が生んだ “確かなアジ” が宿っていました。その瞬間、私はこの一着に、心から魅了されたのです。
服とは、時を重ねることで育まれ、やがて語りかけてくるものなのだと、改めて教えられた瞬間でした。
長谷川氏は、私の目をじっと見つめながらこう言いました。
「売れねえぞ。簡単には。それでもやるか?」
その言葉に、服屋としての心に火がつきました。
簡単には売れない。ただ、だからこそ、この服の魅力を届けたい。伝えたい。
そう強く思いました。

こうして、フランクリーダーはSLOW&STEADYのメインブランドとなりました。
それからの十三年、私はフランクリーダーというブランドの世界観を、ただ「売る」のではなく、お客様にとって分かりやすく“翻訳”する役割でありたいと願い続けてきました。
なぜこの生地なのか。
なぜこのボタンなのか。
なぜこの服に、ドイツの軍服のディテールがさりげなく取り入れられているのか。
ドイツの歴史、文化は?などなど。
それらの背景にある思想や歴史を自分なりに汲み取り、
接客の中で、お一人おひとりにふさわしい言葉でお伝えしていくことが、僕にとって、もっとも大切な仕事だと信じてきました。
正直、開業当初は売れませんでした。
価格やデザインの特異性もあり、徳島では見慣れない服だったというのも大きい理由でしたが、
それでも毎日フランクリーダーを自ら着て、触れていただき、試着していただき、会話を重ねてきました。
時間はかかりましたが、共感してくださるお客様が少しずつ増えていき、気づけば当店はフランクリーダーの日本有数の販売店と呼ばれるところまでやってこれました。
2019年には、デザイナーであるフランク・リーダー氏ご本人が、遥々この徳島の店に足を運んでくださいました。
ポップアップイベントでは多くの方がご来店くださり、夜は長谷川氏や友人たちと共に語り合い、朝まで飲み明かしました。
来徳時に行ったインタビュー記事も、今では読んだことがない人も多いんじゃないでしょうか。この機会によろしければご一読ください。

http://slow-and-steady.com/frankleder/interview/
「ドイツ、東京、徳島。三つ目の故郷ができた」そう言ってくださった彼の言葉は、今でも胸に深く残っています。
僕自身は当たり前ですが、そうやって歴代スタッフや、数えきれないお客様たちがフランクリーダーの洋服に触れ、
学び、何かを感じている様子を見続けてきました。
“楽に売れるもの”が求められる時代だからこそ、
“語りかけてくるもの”を信じていたい。
そんな信念を持ち続けてきてよかったと、今回の納品時に集まってくださった皆さまの笑顔を見て、心から実感しています。
袖を通すたび、時間と記憶を纏い、深みを増していく一着。
それは、流行とは一線を画す、洋服の本質を僕たちに思い出させてくれます。
「新品を着ても、洋服の良さなんてわからねぇ」
長谷川氏がくださったこの一言が、私の服への向き合い方を根本から変えました。
フランクリーダーというブランドと歩んだ十三年は、
服屋としてだけでなく、人としての哲学を育てていく旅でもありました。

そして、この旅は、これからも続いていきます。
その道すがらで出会った様々な人たち、これから出会う人たちとともに、
洋服屋として、ひとりの人間として、少しずつでも成長していけたらと願っています。
繰り返しになりますが、洋服は、ただの“モノ”ではなく、
そこに込められた時間や思想、職人の手の跡、そして着る人の人生までも吸い込みながら、
静かに呼吸し続ける存在です。時代がどう変わろうとも、これからもこの場所で、真摯に洋服と向き合い、
「語りかけてくる服」を必要としている方にしっかり届けていきたいと思います。
もし、今回の納品で手に取ってくださった一着が、
皆さまの人生にそっと寄り添い、時には支えになってくれるような存在になれば、
これほど嬉しいことはありません。
久しぶりのブログ更新に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
また秋冬の納品時にもきっと書きたくなるはずなので、その時もお付き合いください笑。
SLOW&STEADY
岡崎