2020年10月23日から3日間かけて開催される『KLASICA×SLOW&STEADY SPECIAL ITEM RELEASE PARTY』にて、
いよいよ KLASICA×SLOW&STEADY リミテッドアイテムがリリースとなります!
その日を目前に、KLASICA デザイナー河村氏に、リモートにてお話を伺いました。
KLASICA に魅了されるすべての方へ、お届けいたします。 Interviewer:Okazaki|SLOW&STEADY
Photo:Kenta Kannae
Date:2020/10/2

#1KLASICA, CIRCA

岡崎
今回の別注はモデルとして CIRCA を選ばせていただきました。 僕自身 KLASICA を好きになるきっかけとなったモデルで、もちろん個人的な思い入れ以外にも、当店の洋服との相性も考えての選択だったんですが、まずはこの CIRCA について、お伺いしてもいいでしょうか?
河村
CIRCA はもともと KLASICA のディーラーでも長くお取扱いいただいている ARCH SAPPORO でのイベント「VINTAGE x KLASICA」で目について入手した、1900年代初頭のアイテムがベースになっています。
2016年のまだ肌寒さの残る5月です。手に入れたオリジナルは、生成りのシルクリネンのような素材で、着るには素材があまり長く持たないだろうと感じて、ひとまず型紙を起こしておこうと思いました。ビンテージレプリカ的なアプローチを取ることって少ないんですが、この名もない一着は、何かそうしなければならないような気がしたんですよね。
岡崎
そのオリジナルの一着と異なるところや、また河村さん自身が感じる魅力など、ぜひお聞かせください。
河村

まず、この手のモデルは何パターンか雛形があって、バイオーダー(注文を受けてから作るスタイル)で、着る人それぞれの体格にあわせて作られていたのだろうと思っています。ファイヤーマンジャケットなんかも、いくつかのスタイルに沿って出てくることが大半で、業種を越えて近しいデザインが出てくるのはやはりビンテージの面白いところ。でパターンナーと打ち合わせしていて気づいたんですが、この一着は「背中の切り替えのカーブがあまり立体的でなく、平面的な切り替えになっている」ことがわかりました。ここが現在の CIRCA のキモでもあります。シャツ的な立ち位置というか、だからこそ体格を選ばず、着る人にフィットしやすくなっているんだと思います。

オリジナルから変更した点で言えば、歴史上で伸びてしまってズレた左右を整え、肩のラインを少しフラットに修正しました。さらにリップクリームポケットもひとつ追加しています。ワークとドレスの中間のような存在感が、なんといってもこのモデルの一番好きなところですね。太いパンツも細いパンツも、ドレスシューズにも、ワークシューズにも似合いますし。

岡崎
今回、打合せでの早い段階で「完全オリジナルでいこう」という話になり、なんと生地から制作していただきました。使用した生地についてぜひお聞かせください。
河村

今回の生地は、ウール素材の歴史も長い尾州エリア(愛知一宮から岐阜南部あたり)で製作しました。当初どんな生地が最適なのかと思案していたとき、岡崎さんから、KLASICA 初となる「千鳥(ハウンドトゥース)のリクエスト」が飛び込んできて、一気に加速したんですよね。

そこから数パターンのチェックから千鳥を確認しつつ、徐々にお互いのイメージをすり合わせていきました。経糸(たていと)は 30番双糸のコットンを追撚を濃淡染め分け。緯糸(よこいと)は 1/28のシルク紬糸と40番のリネン単糸をそれぞれに染色。今回は急ぎでもあったので、通称「チーズ染色」と呼ばれるPP染めで糸染めを行っています。
※普通の撚った糸に、さらに撚りを加えて強い糸にすること。

糸番手も岡崎さんからのご要望のひとつ「通年使えるアイテムであること」を条件に進めたため、「薄すぎず、厚すぎず」を探って、生地は「COTTON 53% SILK 24% LINEN 23%」に決定しました。
奥行きのある千鳥柄を表現するため、簡素な場合だと2色のところを今回じつは3色で織られています。そこに紬糸(シルクの一種)のネップが随所で顔を出すことで、見た目にもさらに変化が生まれました。

これは本当に今回の、SLOW&STEADY にしかない素材になりましたね。

岡崎
今回、生地から作っていただいたのが個人的にも非常に嬉しく…さらにボタンやスペシャルタグなどをご用意いただいたことも感無量でした。今回のような別注アイテムはブランド側としても、レギュラーリリースとは、やはりまた違う感覚なのでしょうか?
河村

KLASICA を立ち上げたばかりの頃は、作る数もまだまだ少なくて、何でもかんでも投入していましたが、徐々に「数量の手配ができずドロップする」といったことも起きるようになってきたんですね。なのでレギュラーリリースには、なかなかビンテージマテリアルを投入するのが難しくなっているんです。 だから今回のように「あれが使えるんじゃないか?」とか巡らせながら、ストックしていたパーツをカウントできる範囲でリミテッドに用いることは、最高に楽しい瞬間でもありました。

タグに関して言っても、ひたすらスタンプを押していく忍耐の作業。名刺も全てスタンプ押しで作っていた時代がありますから、これも立ち上げ当時からの伝統芸に近いものがあります(笑)
今回のウッドボタンは、美しい型押しのラインが入った1940年代のものですね。CIRCA は本来18mmのボタンで設計されていますが、今回のボタンは19.5mmと少し大きめ。じつはボタンホールの上下間隔を1mmずつ、レギュラーより広く変更しています。

そしてなにより別注アイテムでおもしろいのは「自分の感覚を越えた提案」をいただけるとき。
思いもしていなかった配色や、素材の載せ替えでモデルが生まれかわる様を見るのは、とても刺激になります。「より店にフィットするものを作りたい」という意気込みのオーダーは、やはり仕上がりも良いものになるケースが多いと実感します。

岡崎
今回のアイテムももちろんのこと、KLASICA は主にヨーロッパのビンテージアイテムを独自解釈で再構築されていると思います。河村さんは、いつ頃からヨーロッパビンテージに触れだしたのかなど、その辺りのお話をお聞かせいただけますか?
河村

深みにハマる入り口は、学生時代のミリタリーストアのヨーロッパの古着からですね。
どうにもお金もない時代、でも服は買いたい。だけど、クオリティや迫力が安い洋服には欠けている…。と当時の自分なりに感じていました。

さらに当時のビンテージストアは、アメリカのカルチャーが主体。そんなとき、ワークウェアーやミリタリーアイテムを見て、「ツール」を作るアメリカと「クロージング」を作るヨーロッパのアプローチが随分違って、目に飛び込んできました。

もちろんアメリカの服作りも大好きで、例えば〜1930年代などはかなりグラマラスなパターンのピーコートなんかもあって、テーラリングの仕立てで美しいですよね。ただ「体に合わせて作られたヨーロッパの洋服」のほうが、好みだったんだと思います。
KLASICA の始まりは、ヨーロピアンビンテージミリタリーのリメイクからでした。まぁ当時のいろいろな都合もあったんですが…、でも必然だったのかもしれません。

岡崎
必然、というと?
河村

じつは、もともとインテリアストアかデザインミュージアムで働こうと、心理学とインテリアの勉強をしていたんです。もちろん洋服は大好きでしたが「一番」ではありませんでした。会社勤めのバイヤー時代に、洋服の部門とインテリアの部門の掛け持ちをしていたときに、たくさんのデザイナーと話をしたことは大きな刺激になっていると信じています。

服しか見ることができなかった時代から、作り手と会える時代に自分が突入していたんです。
会社を辞めて独立したときに、インダストリアル寄りな中古の家具と、古着・レザーアイテムが並ぶラインナップにしました。が、そこで問題が起きて…それが「余る巨大サイズのミリタリークローズが場所を占めていった」というものだったんですね。

そこから、それらを解体したり、ジャケットからエプロンやスカートを作ったりと、ひたすらなんとかしていった時期がしばらく続いて。自然発生的にここから KLASICA というレーベルが始まります。いまでもその頃に出会ったデザイナーとは関係が続いていて、相談にのってもらったり、コレクションを見せてもらったり、刺激を常に受けていますね。

岡崎
そのころの貴重な経験や、その中で出会ってこられた様々な作り手の方との出会いが、いまの KLASICA を作っているんですね。
では最後に、当店で必ずする質問なのですが、河村さんが思う「いい作り手」または「いい服」とは何か?ぜひお聞かせください。
河村

難しい質問ですね…
いい作り手とは、生み出すデザインに出来る限り真摯に向き合っている人、でしょうか? あるいはブレないスタイルをいくつか持っていて、いつもそのさじ加減がうまい人、かもしれません。

ただ洋服については、個人的に「これ『が』いい」と思えるものが、いい洋服だと思っています。

やたらそればかり着る、みたいな服って誰しもあるじゃないですか。着倒すもいいし、大事にローテーションしていくのもいいでしょう。便利で清潔な服もいい。歴史を背負った汚れた服もいいし、普通もいい。いましばらく、あるいはずっと、自分の人生の色付けを頼むパートナーみたいなものでしょう。必然、着心地は良いものが多くなると思います。

岡崎
KLASICA は実店舗も運営されていますが、それは河村さんの思う「いい店」ともつながりますか?
河村

いい店…。ちょっと寄って話もできたり、買い物も…。いつものもあるし、時にちょっと試したくなるものもあるし。店主もお客さんも、自分の「好き」を飽きずにいられる空間、でしょうか。

うーん…。しかしこれは簡単に答えられる質問なんでしょうか?逆に岡崎さんに訊きたい(笑)

岡崎
では10/23からの3日間で、僕なりの「いい店」を体感していただけるよう精一杯頑張らせていただきます(笑)本日はどうもありがとうございました。イベントでお会いできることを楽しみにしています!

#2インタビューを終えて

今回の企画、じつは着想から数えると約半年前にもさかのぼる、前々回の展示会時点からスタートしています。

KLASICAの取扱いを始めた直後から、河村さんとは「いつか面白いことできたらいいですね」といったお話はさせていただいてましたが、「数シーズンは当店のスタイルでお客様に認知いただく時間を設けたい」という個人的な思いを経て、今回、満を持しての開催となります。

自分のなかで、SLOW&STEADYとして、作り手の方から含めしっかりとブランドを咀嚼させていただき、丁寧に理解したうえで正式にお声がけさせていただく。
当然時間はかかる上、販売店としては正直かなりの遠回りではあります。しかし今までもこのスタイルで当店は、本当に信頼できるものだけを、お客様へ送り届けてきた自負があります。

「10年先の自分に向けた、洋服を」
これは当店が常に掲げるコンセプトのひとつでもありますが、「いまの自分ではもしかして、少し背伸びに感じるような洋服を、着る」ことが、洋服の持つ機能以上の体験を着た人にもたらすことを信じていますし、実際 当店にお越しいただく多くのお客様からも、強く実感するところです。

そんな今回も、KLASICA との共作で、胸を張って披露できる素晴らしい一着が仕上がりました。
久しぶりの店内イベントを祝すべく、今回はここ徳島にてナチュラルワインを専門に営む「TAI」さんにも特設ブースを併設いただきます。

KLASICA のお二人が、アトリエのあった代々木上原にて、同じくナチュラルワインにハマるきっかけともなった「BAR A VIN」というスタンディングワインバーの名店がありました。
そこのソムリエだった方が退任され、その後、別の場所でワインストアを開業されたそうなのですが、そのお店がなんと「TAI」だったというのは驚きの偶然!
いろんな点は線となり、今回のイベントへと繋がったような、不思議なご縁を感じずにはいられませんでした。

会期中はそんな縁あるナチュラルワインを、当店の洋服を囲みながら、軽食と共にお楽しみいただければ幸いです。
皆様のご来店、心よりお待ちしております。

SLOW&STEADY 岡崎

今回の別注アイテムは特別に、イベント開始時刻に合わせてWEB通販も開始いたします。詳しくは随時 Instagram にて告知いたしますので、どうぞお見逃しなく!