着実にファンを増やし、いまや大手百貨店からも注目されている 革製品を取り扱うお店「ghoe」今回はそんなghoeの商品を生み出す革職人、田岡氏にお話を伺いました。口数こそ少なめですが、要所要所で垣間見える実直なスタンスや空気感が、細部まで丁寧に作り込まれたghoeの商品にそのまま現れている様な気がしました。やはり物には作り手の魂が宿るんでしょう。先で必ず一緒に仕事がしたいと思える素晴らしい作り手の一人です。
岡崎 えーっと、まずghoeについて聞かせてください。名前の由来は?
田岡 物を作る時って、作り手のエゴイズムが非常に重要だなぁと思っていて。そのエゴっていうのを屋号に入れたかったんです。まあ逆さ読みしたらそのままなんですけど(笑)
で、少しセクシーな物作りを心がけたいなと思い「H」をいれて「ghoe」。
岡崎 おお、なるほど。じゃあghoeとしては何年目?
田岡 四年目です。
岡崎 道のりをちょっと聞かせてもらっていい?
田岡 趣味で始めたのが16歳だったんですよ。革の財布が欲しくて(笑)自分の欲しいのが無いなあと思っていたらここで(現ghoe店舗の場所)洋食屋をやってたおじさんがいて、話してたら趣味で革製品を作ってるって言うのでその人に教えてもらって作ったっていうのが最初なんですよ。
岡崎 めちゃめちゃカッコいいな。きっかけもこの場所なんやな。
田岡 だからここに店を出したとき、その時代の仲間達はすごく喜んでくれましたよ。
岡崎 そうだろうなぁ。じゃあ最初はそのマスターに教えてもらったんだ。そこからは?
田岡 それがですね、結局上手くは出来ないんですよね。革もロールで買って何個も作ったんですけど上手くならないなって。で、国内でいわゆる革職人って呼ばれてる人の所を見て回ったんです。それが18歳くらいの時ですね。どこへ行くにもすだち酒持って(笑)割と可愛がってもらいました。
岡崎 さすがやな(笑)
田岡 で、見て回るうちに、東京にずば抜けて凄い先生がいて、これ作りたいんです!って。
岡崎 すごいな。でも実際イメージとして職人の世界って、料理もそうかもしれないけど、すごい男臭いイメージがあって。「これ作りたいです。教えて下さい。」でポンって教えてくれるものなの?
田岡 ちょうど、その先生は教室もされてたんですよ。じゃあ教室おいでよってすんなり入れました。
岡崎 良かったなあ。そこからスタートしたわけか。僕とかもそうなんだけど、ずっと一つの事を誰かの下でやってきたからイコール独立するっていうわけじゃないでしょ?やっぱり他の人より俺は出来るぞっていう自信があってなんだけど。田岡君もやっぱりそういった自信ってあった?俺なら店出してもやっていけるだろう、ブランドもやっていけるだろうっていう。
田岡 めちゃめちゃありました(笑)技術面は未熟な所もありましたけどね。
岡崎 自信あって始めたけど、全然あかんかったわって落ち込んだり。
田岡 そうです、そんな感じです。
岡崎 技術面も全てやったら出来るだろうって思った?
田岡 そうですね、伸び率。
いずれ良くなるから大丈夫だろうって。今は我慢しようって思ってましたね。
岡崎 前のインタビューでドリスの喜多くんとも同じ話になったんだけど、お客さんが求める物と、自分がやりたい方向性ってあるでしょ。
自分がこれを作りたいっていう物とお客さんのニーズと。そういう事ってあると思うんだけど、どんな感じでバランス取ってる?
田岡 全く取ってないです。完全自分ですね。
例えば全部手縫いで作ってるんですけど、(お客さんが)ミシンでいいからもっと安いのない?みたいな。そういう風になった時にそれは無理だよと。それやったら僕がやる意味ないし。ていうのもどんどん上達してるんですよね。で上達すると工程が増えるんですよね、一個の品物に対して。
だから値段も何回か値上げしているんですけど、今後もその流れで行きたいと思ってて。てなった時に、どこかで明らかに売れない値段になってくる事が起こると思うんですよね。
岡崎 田岡君の中でそのボーダーラインって決めてるの?
田岡 決めてないです。よくイメージするのは、超スピード出してて走ってカーブ曲がれんでドーンみたいな(笑)
岡崎 (笑)話は変わるけど、前に話した時に「ブランディングについて悩んでるんですよね」みたいな話してたけどその後どう?どんな感じになった?
田岡 んー、なんかこう、考えたんですけど。作ってる時はブランドって邪魔な物になるんですよね。
ブランドとしてって意識しない方が純度の高い状態だと思うんです。
岡崎 じゃあ、名前をあまり意識しすぎないっていうブランディングやな(笑)
田岡 ですね。ちょっと話がずれるかもなんですが、先日旅行で台湾へ行ったんです。その時に「志村けんが食事をした店です」みたいなポップが貼ってあるフカヒレ屋があって、優香と2人で来てたみたいなんですけど。やっぱり日本人が台湾来て店を選ぶのって大変じゃないですか。そこに食通かどうかは知らないんですけど志村けんが来たっていうのがあれば皆安心して来ますよね。
岡崎 ラーメン屋に貼ってあるサインみたいな物やな。
田岡 そうです。極端な話そこで出てくるフカヒレが美味かろうが不味かろうがまあこんなもんかなっていう満足をお客さんはすると思うので。安心して買い物をしていただける努力は必要なんだろうなっていうのは感じました。
岡崎 なるほどな。地元徳島の今までのお客さんは十分安心して買ってくれてるんじゃない?
田岡 やっぱりエルメス買う方が安心して買えるだろうと思うので。
岡崎 でもghoeは品質が良いし、リピーターは多いでしょ?
田岡 そうですね。最初の一歩を飛び越えて来てもらえたら、そういったお客さんも少なくはないですね。
岡崎 さっきエルメスが話に出たけど、作り手として他ブランドの商品とか意識したりはする?たとえばこの部分ってすごいな、とか。
田岡 あ、それはします。やっぱりファンな部分が強いですね、革製品に対して。
岡崎 なるほど。今で四年目でしょ。日々作っていく中で当然クオリティは上がっていくと思うんだけど、そういった積み重ねの方じゃなくもっとこうだったらとかいうジャンプアップの為の方の努力って今も何かしてるの?
田岡 今も東京の先生のところへ月二回通わせてもらってますよ。
岡崎 へえ!今も?
田岡 はい。でも毎日作ってる時間の中でもっと気付きを増やしていくっていうのを大切にしていこうと思ってます。
岡崎 そうかぁ。聞いたけどghoeの商品って、今二年待ちなんでしょ?
田岡 物によっては…そうですね。作るのが遅いっていうか、時間をかけなきゃ作れないっていうのがあるので。
岡崎 すごいな。ブランドと店舗販売を平行して田岡君が一人でやるって僕からすると結構大変なように思うんだけど、実際発信していかなきゃ二年待ちとか無いでしょ。それってどういった感じの拡がり方だったの?
田岡 最初は友達や口コミです。それがどんどん拡がって今の状態って感じです。
…あんまり考えてなかったですね。宣伝してお客さんに来てもらうっていうのは。
ただ、さっき言った「安心度」っていうのを考えた時には、例えばでっかい雑誌に載せたらもっと良いのかもしれませんが。
岡崎 さっきも言ったけど、あくまで僕の知ってる限りなんだけどghoeの商品を買ってる人たちは、そういうのを気にしていない人が多い気はする。
田岡 それは僕も思います。
岡崎 SLOW&STEADYのお客さんもそうで、雑誌に載ってるからだとかブランドのファンだとかより、店が好きだって言ってくれるお客さんの方が多い気がする。実際それって嬉しいよね。
田岡 わかります。有り難いですよね。
岡崎 よくね、お客さんにも聞かれたりするんだけど、田岡君の思う、好きな事を仕事にする為のコツって何だと思う?
田岡 決めちゃうって事じゃないでしょうか。けど革製品好きとか洋服好きとかってマネタイズしやすいじゃないですか、お金になりやすいというか。お金になりにくいものを好きな人の場合だとどうしたらいいんでしょうか、分からないですね。
岡崎 アーティストとかってことかな。それは僕もわからないな(笑)ジャンルが違いすぎて。でも田岡君から感じるのはお金を儲けようっていうスタンスじゃないでしょ、スタートは。
田岡 もちろん。
岡崎 僕もそう。どんなに貧乏しても好きだから一生これでやって行くって決めてるもん。やっぱり気持ちの部分ではどのジャンルも大切な物は一緒なのかもしれないよな。腹を括るっていう(笑)
…さっき革製品のファンって言ってたけど田岡君の思う革の魅力ってどういう所?
田岡 なんかこう、革って中途半端な存在なんですよね。布でもないし木でもないしっていう。結構いい加減な素材なんですよ。絶対こうなるだろうっていう方程式を当てはめても繊維の流れで言うこと聞かなかったりとかあるんですけど。言うこと聞かない感じですかね、作り手の立場から言うと。
岡崎 でもそれは男心をくすぐる部分でもあるよな。
田岡 逆に、服の魅力って何ですか?
岡崎 んー…洋服好きのスタートって、すごく単純に言うとモテたいって事だと思ってて(笑)ただモテたいでスタートはするんだけど、モテたいだけで止まる人も多いと思うのよ。でもそこを越えるとどんどん逸脱したところに行けるというか。例えば歴史が入ってきたりとか、生地のルーツが入ってきたりとか。で、歴史好きの人と一緒で掘っていけば掘っていくほど面白いし、なんかルールがあったりとかっていうのが最初のモテたいだけだったのを越えていく。
そういうのを自分なりに解釈しながらやっていくのが面白いな。いいものをごちゃ混ぜにやっていけるっていうのは日本人にしかないから。セレクトショップをやる面白さっていうのはそこかなって。
田岡 なるほど。
岡崎 好きなことを一生懸命やって、お互いにこれからも頑張って行こう。最後になんだけど、僕も職人技とか好きなタイプで、洋服を説明する時に凄くこだわって時間かけて作ってる物って結構熱く説明したりするのよ。田岡くんの思う職人ってどういうものなのかなっていうのを聞きたいです。
田岡 東京の先生が抜群にすごい理由は何なんだろうかって。知り合ってすぐに、どうして先生の作る物はこんなに凄いのかっていうのをそのまま聞いたことがあるんです。
そしたら、「綺麗になるまでするから」って。それがまた凄まじい事なんですけど。
金属のパーツをちゃんと図面引いて自分で作ったりとかしてて。とんでもない作業がいっぱいあるんです。それをまとめると綺麗になるまでするっていう事になると。
とにかくクオリティの高い物を作ってそして日々腕を上げていく。これに尽きるのかな。
必要な事、考えられる事は全部やる。そして手を抜かない事。コストを考えると、手を抜かずにやってる方なんて本当に一握りだと思うんです。「一度でも手を抜いた奴はもう一生這い上がれない」と以前先生が言ってくれた事がありまして。
思い出すたびにゾッとします。
だから職人っていうのは綺麗になるまでする人かなって。
【対談:2015.03.31】【PHOTO: 金苗 健太】