岡崎 そしてこの度、龍平さんが15年前に出したこの「クリークリー」を再販します、という話で。ここからは「クリークリー」のことを掘り下げて聞きたいんですが、まず中野くんに塗ってもらうことになったって聞いた時にはびっくりして。
佐藤 うん。ここ1年の話なんだけど中野くんとよく釣りに行くようになって。年下でルアーで飯食ってる奴が徳島にいるって周りからもすごく聞いてて、 ANYDOPE の名前もばんばん出てくるし。すごく興味は持ってたの。で、俺がこういうタイプだから厚かましくいくでしょ、1年前はまだ船も持ってないくせに(笑)で、中野くんの船に同乗させてもらって一緒に釣りしてくなかで『佐藤さん、「クリークリー」作らないんですか?』っていう話をしてくれたわけよ。びっくりしてね。俺からしたら恥ずかしいというかちょっと思い入れがありすぎて。この羽見るのも嫌だった。でも中野くんはもちろんそんなことは知らないから普通に聞いてくれて。ビルダーの子がそうやって言ってくれるって単純に嬉しかったの。
岡崎 中野くんは「クリークリー」の存在を昔から知ってたんですか?
中野 それは佐藤さんと出会ってからですね。佐藤さんが作ってた時期は、僕が釣りから離れてた時期か、もしかしたらそれより以前ですもんね。
佐藤 だいたい2年ぐらい前だね。
中野 ジャンキーズジャンキーズに来てたでしょ?あの時初めて。
岡崎 トップウォータージャンキーの大会ね。お二人はそこで初めて知り合ったんですか?
佐藤 うん。その大会のキャンプに行ってて、そこに中野くんもいたんだよね。キャンプの道具もホワイトガソリンでシュコシュコしながらシアーズのランタンで。そういうのちゃんと持ってて、実用して手入れもちゃんとしてるし、すごくいい印象だった。
中野 昔 GOODCAST っていうブランドでルアー作ってたっていうのはその時知ったんですけど実物は見たことがなかった。キャンプする中で別の船で釣りしてる佐藤さん、ほんとよく釣るんですよね。で、佐藤さん何で釣れたんですか?って聞いたら「クリークリー」って。毎回「クリークリー」で釣るんですよね。釣った魚の写真のなかで初めて「クリークリー」を見たんですけど、あの時はいろんな意味で衝撃でしたね(笑)
佐藤 で、中野くんと釣りに行ってるうちに2度目の「クリークリー」作らないんですか?がくるわけよ。俺からしたらむず痒いなってなりながらも、嬉しいし、だんだん意識しだして。でも、まあまあまあって思って3回目もし言われたらもう一回出そうかなって思って。そしたら遂に3回目が来て(笑)もう、タイミングとしては今かなって。俺はもう、作るのに費やす時間も環境も難しいけど、そこらは中野くんにお願いして全部任せたらどうだろって。3回も聞いてくれるんならもしかしてって思って聞いてみたら、笑いながらいいですよって。
中野 僕がどうして何度も作らないんですか?って聞いたのかっていうと、初めて釣りに行った時、佐藤さんが「クリークリー」をずっと使ってて、クローラータイプだから左右に揺れながら動くんですけど、その時にこの黒の目玉が左右にクリクリクリクリって動いてるんですよ。それがすごい可愛くて、見た瞬間、めっちゃ欲しいなって思って…単純に僕が欲しいからだったんですよね。でも今はパーツを作れる環境がないのと、ルアーを作れる道具が手元にないっていうお話を聞いて。その時から僕に作らせて貰えないかなって内心思ってて。でも釣りって僕にとっては仕事でもあるんですけど、大前提として趣味であり、楽しい遊びでもあるから、そこでの友達に自分からあんまり仕事の話を持ち込みたくないなっていうのもあって、作らないんですか?って聞くことしかできなかった(笑)3回目聞いた時に頼んで貰えて内心よっしゃー!と思いましたね。
岡崎 グレードアップして再リリースですか?
佐藤 うん。やっぱりプロが塗ってくれるんならと。こっちとしてもそんな嬉しいことはない。
中野 僕は「クリークリー」を作るにあたって、デザインは佐藤さんが作っていたものをそのままに作りたいなって思ってます。塗りとかに関しては自分の出来る限りのクオリティーで仕上げたいと思いますけど。
佐藤 ただこいつの弱点はこの細かい溝でね。それはお願いした。ちょっと当たっただけでアクションに影響して、耐久性のない羽のルアーってだけで使われないようになる。実際俺が使ってるのはヒートンを回して回してめちゃめちゃ掘りこんでるよ。
中野 その溝を掘るってアイデアも仕方なくヒートンをねじて込んでいてたまたま出来たって聞いて。そういうとこがまた面白いなって。
最初このルアーの制作を頼まれた時に ANYDOPE の名前も表に使いダブルネームで作る?って話も出てたんですけど、このルアーに ANYDOPE の名前を入れるのであれば、やっぱりアクションチェックもして僕自身が納得のいくルアーにしなければいけない。どこかしらデザインを変更することになると思ったんです。僕はどっちかと言うと、理論立ててからルアーデザインを考えていくタイプなんで、「クリークリー」をはじめて見た時に全く理解ができなかった。何でこの形になったんだろうって。佐藤さんに聞いても聞いても何もかも偶然なったって言うの。僕はそこがすごい魅力的だったし、佐藤さんの人柄も出てるなあと。だから、僕は佐藤さんの「クリークリー」が欲しいと思ったんですよ。制作するにあたって、元のデザインを1つも崩したくないなって。それで、 ANYDOPE のネームを入れることはお断りして、僕はあくまで裏方に徹することにしました。
岡崎 確かにデザインは他にはないですよね。偶然といえばあれも偶然じゃないですか?作ってバケツに入れたら浮いた!って。
佐藤 バケツに水張ってね、おっしゃ浮いたみたいな。狙っては作れないわ。
中野 目玉が左右に動くのがいいすよねって佐藤さんに言ったら、『え、そう?』みたいな(笑)15年良さに気づいてなかった(笑)
佐藤 おお、動いてるわ~、みたいなね。全然知らなかった、取り外しが出来るようにっていうのしか考えてなかったな。
岡崎 結局は、龍平さんが自分でこれって思うデザインなんでしょうね。
佐藤 そうだね、こんなの欲しかったから(笑)
岡崎 中野くんはどんなことに気を配って作っていますか?
中野 釣り道具としてフィールドでちゃんと使える物っていうのを一番に考えますね。それって当たり前のようで案外難しいんですよ。アクションさせて気持ちがいいもので更に機能的であるものが理想です。今まで無かった物とかオリジナリティとかあんまり考えないですかね。
岡崎 そこは龍平さんとは真逆のアプローチですね。
中野 そうですね。
佐藤 アクションのことをまず考えないもんな、全ては形から!
中野 やっぱ機能ありきで考えるから、自ずと形はオーソドックスなものになっていくんですけどね。例えばブーツで言えばワークブーツであったりとか登山靴であったりとかそういった特定の機能の靴はどんなメーカーから出しても似たような形になっていくと思うんです。ルアーにしても釣り場の環境は時代とともに変わっていますから、それに対応すべくルアーを進化させていく必要はあるとは思います。でも、ブラックバスという魚そのものが進化している訳ではないですから、ルアーに求められるものというのは本質的には変わらないと思うんですよね。ただ、その中でもトップウォーターフィッシングではブラックバスがルアーのカラーにはあまりセレクティブではないと思うんです。カラーリングには自由度があるんですよ。だからカラーリングは思いっきり遊びたいなっていうのがあって。そういう遊びの部分ってやっぱりすごく原動力になりますね。
岡崎 ほんと綺麗な色の出し方してますもんね。龍平さんは?今後ビルダーとしてとかは考えてはないんですか?
佐藤 俺ね、今の仕事って体力使うから10年後にリタイアだろうなって思ってて。天井這いずり回るのきっと無理だからね。そしたらビルダーしたいな。工場も、もう一回作って。釣りってキャンプとかでもそうだけど、知り合いを通じて色んな友達ができるでしょ。中野くんも言ってたけど、そういう場所で飯が食えるのは最高だと思う。
中野 周りの人間には恵まれたなって思いますね。今周りにいる釣り人がいなかったら辞めてたかもしれない。
岡崎 話をすればするほど感じるんですけど、ほんとお2人の性格が逆すぎて(笑)、最初一緒に作るって聞いた時は正直びっくりしたんですけど、真逆だから惹かれあったのかもしれないですね。
佐藤 やっぱり俺はハイクオリティが好きで。ものづくりはハイクオリティがまず一番かなと。中野くんのルアーってハイクオリティでしょ。真似出来っこないからすごい。
岡崎 本気でプロになるって決めてから最短距離でここまで来てるし、その上知名度もすごいですもんね。
中野 それに関しては運が良かったのか悪かったのかわからないですけど…
佐藤 変わらず徹底したストイックな姿勢とか本当にすごいなと思って。僕らからすると、こんなおもちゃみたいな見た目でバコッと釣れたらやっぱりテンションも上がるし。プライドも技術も持った中野くんと今回一緒にやるってことは本当に嬉しいです。
中野 でも実際これ見た時はジェラシー感じましたね、自分には作れないな、この発想はないなと。
岡崎 龍平さんが作る物って全て龍平さんの形ですもんね。アメリカっぽいこの少し粗い感じ、粗いのにディティールは繊細だったり。リリースはいつ頃の予定ですか?
佐藤 3月中には!
岡崎 2人の力で新しい「クリークリー」ができるわけですね。最後にお聞きしたいんですが、例えば釣り具でも、洋服でも、食べ物でも何でもいいんですけど、お二人がものを選ぶときの基準とは?
佐藤 ディティールとクオリティの高さ。
中野 僕は自身のブランドコンセプトでもあるんですけど、あまり奇をてらわず機能美を感じれる物に惹かれますね。さっき言った自分が作る時に気を配ってることとほぼ一緒です。あとは本気度。本気で作った物っていうのはやっぱり手に入れたいと思うんですよ。
岡崎 僕もそれは最近すごく感じますね。売るにしても買うにしても、裏側を見てしまうというか。そこには当然作り手がいて、熱意一つでたまにリスクまで背負ってやったり。当然時間もかかってるし、そういうのって伝わるもんだと思うんですよね、やっぱり。例えば効率を求めて数を作ればビジネス的には大成功っだったりするのかもしれないけど、そうじゃない所をわざわざ選んで一生懸命背負う行為自体が本気の表れなのかなって思って。そこにスポットを当てて見てしまうんです。
佐藤 ほんとにね。そういった物って作り手の思いやら意思なんかが手に取った時にちゃんとこちら側にも伝わって、良い物だなってしっかり感じることができるのがすごい。そういう物を作っていきたいと思うよ。
【対談:2017.02.20】【PHOTO: 金苗 健太】