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2014-12-20 Update

独自路線でいまや古本業界内でも注目され始めている古本屋「古書ドリス」。古くからの友人でもある「古書ドリス」店主の喜多君に、謎めいた業種『古本屋』について、また『実店舗』のあり方について、詳しく語っていただきました。好きなことを仕事にしたいと思っている方、いま仕事で悩んでいる方、必読の対談です。

「幻想美術」というジャンルで入り口になるようなお店がなかった

岡崎 この前はごちそうさま。ありがとう。

喜多 いやいや。ちなみに12月3日でこっちに来てから2周年です。

岡崎 お~!おめでとう! どう移転して? 北島(徳島県)から始まって、ていうか厳密に言ったら自宅から始まって。

喜多 そうね。実家の4畳半ぐらいの部屋。便所の横の。実家の電話を問い合わせ先にして (笑)

岡崎 そうそう。家から始まって、北島行って北島も改装したよね?

喜多 うん。倉庫も借りた。

岡崎 で、東京に移転て、短期間で結構アクティブに動いてるよね。

喜多 うん。でも今は15坪の店鋪だけだけれど。徳島でいるときは今と同じくらいの広さの店に加えて倉庫ふたつ、自宅マンションは3LDKで一部屋は事務所みたいな。凄い恵まれた環境だったよ。
で、そこに大量に本が集まってくる。今の4倍ぐらいの在庫量を常に抱えてね。

で、徳島時代の家賃を全部合わせても、今の店ひとつの家賃より安いっていう (笑)

岡崎 それってどうなの。素人からしたら在庫ある方が有利な気がするけど。

喜多 いや、昔はその膨大な在庫がストレスになってたかな。言ったら完全にキャパオーバーで、注文の度探すのも大変だし。管理出来るなら在庫持てるのも良いかもしれないけど、家賃の安さに甘えて大量に物をためてしまった。移転前に半分以上処分したけれど、あまり高い金額にはならなかった。要するに、売れない古本を大量に持ってたって事だよね。

岡崎 じゃあ、今は回転率とか店のキャパとかも考えてある程度厳選してやりやすくなった?

喜多 うん。動きの悪い在庫に関しても、今は市場に出品すれば、すぐある程度の金額で売れる。徳島でも市場はあったけど、例えばファッション関連の本を出品しても周りが年配の人ばっかりだと結局売れなくて。若手の出す本はむずかしかった。でもこっち(東京)なら僕より知識のある人は山ほどいるし、よっぽどの事が無い限りは見逃されるって事はないしね。

▲徳島北島店 閉店時

岡崎 その代わりライバルはめちゃめちゃいるでしょ?

喜多 ライバルっていうか僕よりレベルの高い店ばかりだよ。歴史ある本屋さんとか内装バッチリなお洒落な本屋さんとか。

岡崎 そんな中で他と違うっていうか、ドリスとしてここは他とは違うってとこってどんなとこ?

喜多 徳島でいるときは、最初は死体とかドラッグの関連の本とか、ちょっとダーティーで偏ったセレクトしてた。そういうちょっと危ない物がうけててね。そういうのがあったから、カテゴリーとしてそういう本屋として扱われたけど、だんだん一般的なアートとかデザイン関連にも広げて。徳島でそんな本屋もなかったし。東京で流行ってる本屋さんの雰囲気にちょっと似せて、でもそれよりレベルは低いのは自分でもわかってた。で、東京に出るとなってからはもう少し絞ろうと思って。最初行きたいと思ってた場所が清澄白河って所で、現代美術館とか、ギャラリーがたくさん入ったビルもあった。前行ったでしょ、Chim↑Pomのやつとか。

岡崎 はいはい。

喜多 で、個人的にも現代美術が好きだし清澄白河で現代美術をメインにやろうって思ってたんだけど、いい場所がなくって。あと徳島で居た時に培った経験やWEBストアのお客さんを全てゼロに戻して、東京の人の為だけのお店にはしたくなかったし、大金をだして大きな商業都市に行く勇気もなかった。でスライド式に今の場所を見つけて、理想的な立地だと思ってここにした。最初、柱にしようって思ってた現代美術はこっちでいろんなギャラリーを回るたび、アートは本で読むもんじゃないなって気づいて、でネット購入のお客さんも含めて、昔からのお客さん達は幻想文学や幻想美術を品揃えをを見てくれてるなって気がついて、そこを柱に店づくりして。現代美術は趣味で少しだけ置いておこうと方向転換した。

岡崎 幻想美術ってどういうもの?

喜多 定義は難しいんやけど、平たく言ったら内面世界であったり、夢の世界であったり、悪魔であったり天使であったり、ヨーロッパの中世の建物だったりギリシャ神話だったりとか。そんなものをモチーフにした絵画。そういった本を扱う古本屋は基本的に敷居が高く感じたから、そういう本を若い人向けに扱おうかなと。

岡崎 そのジャンルで若い子も入れるいわば入り口のようなお店は少なかったって事ね。

喜多 そう思った。それと日本の人形作家であるとか、耽美的だったりエロティックな雰囲気のイラストレーターとかの方面を扱う。最初は手探りだったけど、そういった本を好む人達が全国に一定以上いるっていうのが見えてきて。お客さんがお店に来てくれて話をしていくうちに自分の店のターゲット、品揃えができてきたって感じかな。自分の趣味と完全合致である必要はない。今、自分の店を評価してくれているお客さんが今後も来続けてくれる為にはどうすれば良いかっていうのを常に考えてる。あと本を売ってもらう為にも。

古本が売れても著者や出版社には何のメリットもない

岡崎 話は変わって一般的に古本屋さんて流通とか色々謎が多い業種だなって思うんだけど、仕入れとか価格設定とかどうなってるの?

喜多 仕入れは細かく言えば色々あるんだけど、基本的にはお客さんからの買い取り。あとは古書組合員が入れる市場での取引。

岡崎 買い取り依頼て結構多いの?

喜多 うん、結構。徳島のときは段ボールで郵送ってのが多かったけど、今は直接来てくれたり、僕がお客さんの自宅に行く場合もあるよ。
ある程度店に出してる本の幅は狭くしてるから、お客さんからもどんな本なら買ってくれますかって聞かれたりするけど、うちは基本的に何でもOKにしてて。

岡崎 じゃあ、買い取る時点で販売ルートを決めてたりするの?

喜多 そう。これは店かなとか、市場だなとか処分しか無いとか。一冊の本でも複数あるルートの中から感覚的に判断していくって感じ。

岡崎 そうやって聞いてたら僕が思ってたよりずっと回転は速いよね。

喜多 自分のお店でこれは柱ですって思ってるジャンルの幻想美術とか球体関節人形とかの物に関してはすぐには手放さずある程度はストックしてるけど、それ以外の物は状況に合わせて動いてるかな~。

岡崎 話しにも出たけど、今展示してるでしょ?

喜多 うん、人形展(※)。12月2日からね。実際、販売もしてて。
※「人形展Doris」2014/12/02(火)-12/28(日)参加作家:雨沢聖 / 江村あるめ 詳細HP

岡崎 イベントを定期的にやってるのって、店自体の宣伝っていうのもある?

喜多 う~ん。洋服と違って本は季節に左右されないし、こんなの入荷しましたって言ったからってすぐお店に来てくれるかっていったらそうでもなくて。その上、ウチは東京でも東の方にある江東区で、サブカルチャーや美術に興味ある人は西側の杉並区とか世田谷区のほうが多いから、そっちの方の人には、森下はちょっと遠いよね~とか言われたり。だからお客さんに何度も来てもらえる様にやってるっていうのもあるよ。あとね、古本が売れても著者や出版社には何のメリットもないわけで。例えば洋服だったら仕入れた時点でメーカーへの利益っていうのがあるでしょ。そういう形でブランドにも貢献できてるけど、古本屋の本が売れても本を作った人への利益はゼロ。だから本を売る以外で、作家さんやアーティストに何か貢献したいなっていうのはあるよ。展示したり宣伝したりして、もっともっと作家さんの知名度が上がってくれる様に。最近は特にそういう思いが強いかな。還元するって意識みたいな。

岡崎 良い事いうな~。それって凄い大事な気がする。

喜多 うん。今回展示の人形作家さんは既に全国にファンがいるけれど、ギャラリーじゃなく、ドリスみたいに色んな人が来る場所で展示をする事で、今までいなかった新しいファンができたらなって。もちろんウチで作品を売って金銭的な意味で貢献したいっていう気持ちも強い。あと単純に面白いし、新しい交流も生まれるし。店としても作品の力を借りるっていうかね。展示期間と、古本屋のみの仕事に戻る期間っていうサイクルがちゃんとできてきたらいいなとは思うけどね。展示が終わったらまた店は本に埋もれてるっていう(笑)あと自分が出ていってするイベントとしては今週末は近所の商店街に出て行って一箱古本市っていう色んな人が箱を持ち寄って古本市をやるんだけど(※12月7日、終了しました)、アマチュアもプロも一緒になってやるっていう。僕もそのときはアマチュアの人と一緒になって趣味の延長線上で楽しんでやってる。近所の人と交流しながらね。緩急つけていつもいつもガチでやってるわけじゃなく、そこはもうひとりの本好きで。楽しむことが目的で、売り上げもちょとだけあればそれでいい感じで (笑)

岡崎 すごいな~、明らかに徳島の時より今の方が余裕はでた感じあるよね。

喜多 余裕ないよ!余裕なら徳島の方があった。

岡崎 東京に来てよかった?

喜多 よかった、かな(笑)
ここは徳島がよかった、ここは東京がいいなとかはやっぱりあるよ。家賃でいえば月末毎回徳島がよかったって思うよね (笑)
東京では、家賃を払う為に生きているんだなって思いながら生活してるよねー。

岡崎 (爆笑)

喜多 未だになんだけど、毎月払うとやっぱり安心するもん。よし、今月も乗り切ったな、みたいな。

価値観をお客さんと共有できている瞬間

喜多 あと、これは四国に同じような店がなかったっていう点で、徳島の方がウチの店を贔屓にしてくれる人や、熱心に通ってくれる常連さんは多かったかな。必要とされてる感が東京よりも強いっていうか。でも東京では古本屋が山ほどある。神保町だけでも百何十店っていう古本屋があるから。僕の店なんて、凄く貴重な本は置いてないし、並んでる冊数も多くないし、特別値段が安いわけでもないから、目の肥えた古本マニアが喜ぶような要素はない。古本業界では、色々な意味で底辺なわけですよ。そんな中、見つけてくれて気に入ってもらえて通ってくれるっていうありがたみはある。徳島とはまた違う意味合いで。

岡崎 神保町って古本の聖地みたいな感じなの?

喜多 世界一の古本屋街として、歴史もあるし、有名な専門店が集まってる、街自体がある種ブランドになってるみたいな感じかな?僕はカレーの聖地でもあると思ってるけれど。

岡崎 ちなみに古本の魅力って?

喜多 新刊って、例外もあるけれど、基本的に品揃えにセオリーみたいなのもあるからよく似た感じにはなってしまうんだけど、ブックオフを除けば古本屋って品揃えに個性が出る。
流行とは関係のないところで店それぞれの店主の思想やセンス、その店についてるお客さんの趣味がダイレクトに反映されているわけなんだよね。
結局本っていうのは、例えば70年代に出た本の雰囲気は今は再現できない。昔の本より今の方が優れてるっていうのは無くて、それっていうのもコストとかマーケティングとか無視して作家のやりたい事をどーんと詰め込んで豪華な本を出した人とかいたからなんだよね。当時でも高価な値段で売ってたんだろうけど、今だったら何十万って値段で取引される場合もあるし、昔すごい話題になって売れた本でも、流行から外れてたら今は価値がなかったり。結局古本の価値って、お客さんの趣味趣向によっても変わってくるわけで、探してた物が意外に百円で買えてみたり、逆に思ってた以上に高かったり。そういう個人の価値と古本についてる値段の関係とかそんな所がすごく面白かったりすると思う。最近も定価4千円だけれど絶版だから3万円で店頭に出してた本があって、それを買ってくれたお客さんがいてね。で、その人が資本主義とお金の無意味さについて熱く話してくれたんだけど…。

喜多 その人が言うわけよ。本当は値段なんてあってないようなもんだって。だから、高い安いっていうのは、その人の主観でしかない。あれでしょ?洋服だって、なんで5万もするんだとか(笑)
でも、洋服がわかる人や好きな人にはその5万が安かったり、そうじゃない人や自分の趣味じゃない物だったら高く感じるわけだし。

岡崎 わかる。たまにクソ高いって言われる!(笑)

喜多 ははは!まあ、岡崎君の所は最初から定価が決まってるんだろうけど、いやほんと、値段って何だろうって。

岡崎 それって価値観の共有だよね。たとえば喜多君がつけた3万円の本をその値段で購入してくれたって時点で価値観をお客さんと共有できてる感じがしない?僕は店をやっててそういう楽しさはあるんだよね。高かろうが安かろうが、僕がいいと思うものを入れてやってるんだけど、それを喜んで買ってくれるっていうところに店をやっててよかったなって凄く感じるんだよね。時代の流れはあるんだけど、その中でも自分の好きな物や好きな人っていうのを大事にしていきたいって。

喜多 自分だけが好きで、けど素人にはわかんね~だろ~なってやり方では、今は難しいよね。どう伝えていくかって大事。

岡崎 ほんと伝え方は日々勉強なんだけど。ブランドも育てて、お客さんにも共感してもらうっていう。

喜多 岡崎君とこはさ、接客をかなり密にしてるでしょ?おれもやらなきゃだめなのかなとか思うよ。

岡崎 まあ喜多君のところは、キャラ的に熱くがっつり接客ってなんかな~。

喜多 ん~、何となく本棚を見てる人にこれが良いですよって近づくのは非常に野暮なやり方なので、やらないけども。洋服ではそれが必要な場合もあるでしょ。
でも、向こうから話しかけてくれたら嬉しいし、長く店内で本を見てる人とかは話しかけたりする時もあるけど。
岡崎君の店程じゃないにしても、そういう話の中で得られる情報や縁もあるし、気があったお客さんとはそのまま閉店後に飲みに行くこともある。
でもね、接客は悩むよ。距離感とか、気配の消し方とか、どうしたら良いのか。

岡崎 僕も未だに悩んでるよ。最近は、あんまり過剰にこっちでコントロールする事でもないんじゃないかなって思う。向こうから聞いてくれる分には全力で応えるけど、あまりにもすごい接客するっていうのは違う気がして。やっぱり気持ちで繋がりたいしね。

喜多 次来るのが重くなるような事にはしたくないよね。

岡崎 そうだね。勉強しなきゃね。

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