岡崎 実際この世界のジュエリーは時代背景を切っても切れない伝統工芸のようなものだと思うんです。そうやって今井さんが現地でアーティスと達と関係を築いて、作品を日本に持って帰ってきてくれるっていうのは僕らからすれば興味深い話も聞けるし、凄く有り難いです。僕が言うのもなんですがそんな根っこの部分の熱い情熱が今井さんがこの世界で第一人者と言われる所以じゃないかと思うんですが。
今井 有難うございます (一礼) 始めたときから自分の根本は変わってなくて、創り手たちと深い関係を築きたい、感情を通わせたいとの思いは今も変わりません。その手で生み出すものですからね。せっかく手で創りあげるならば、強い気持ち、思い入れを持って創ってもらいたい。私の顔を思い浮かべてじゃないですけど、感情を通わせていたなら当然普段よりも少しはそう、さらに気持を持って創作に入ってもらえますよね。せっかく彼らの住む地から遠くここ日本のお客様に作品を紹介するのであれば、それぞれの創り手が強い思い入れと気持ちを持って創ってくれた作品を紹介したいなって思ったんです。お客様方にしても私にしても一生の宝物になるものですからね。
岡崎 目に見えない気持ちの部分ですね。
今井 そう。気持ちを込めて創ってもらいたい。単純なんですよ深い理由なんてなくて。
岡崎 今井さんが素材を持ち込んでこういう形を創ってくださいって、個人オーダーじゃないですけどアーティスト側にオーダーすることも多いんですか?
今井 実際に私が素材を持ち込むことも含めて多々ありますよ。創り手所有の素材を私が見て依頼することだって。ただ、アーティストですから彼らの意見を尊重しないといけないし、創り手のこんな作品を生み出したいって気持ちを大事にしています。創り手それぞれの創造性や個性もありますしね。芸術家ですから。彼らが形にしたい、創造したい作品を創ってもらうのが一番です。ただ、自分も大好きなので私としてはあなたの作風を尊重した、こういった形、デザインの作品もあったら良いなって(笑) アーティスト達とは作品の制作過程からデザインそして出来上がるまで、それこそ多岐に渡り話をします。
岡崎 基本的にはアーティストの意向を尊重しながらピンポイントでオーダーする。いわゆる別注アイテムみたいな感じですかね。
今井 あくまでメインディッシュは彼らですから。僕らは常にサイドディッシュであって主人公は彼ら。どういう形で料理するかってのは。でもね、やっぱりお肉を食べる人ってミディアムレアが好きだったりレアが好きな人もいて。ネイティブアメリカンはあんまり生肉を食べないんですよね。一緒に食事に行っても彼らの中には今までの生活の風習で、肉の焼き加減をウェルダンで頼む人もいるんですけれど、私はウェルダンじゃなくてミディアムレアが食べたいとか。今までウェルダンで作ってたものを私はミディアムレアで食べたいからミディアムレアで作ってくださいよってことです。
一同 笑
岡崎 今ではアメリカのネイティブアメリカンジュエリーの博物館主催のショーにも作品提供を依頼されるほど本場アメリカでも認知されて信頼されている今井さんですけど、最初は失敗もあったんでしょうか?以前少しお伺いしたんですが、アーティスト本人でも精巧に創られたフェイクのターコイズと本物の見分けがつかないのが多くあるってお聞きしましたが。
今井 勿論です。今でも失敗は多々あります。失敗は成功のもとですから(笑) 誰からもこの世界を教わったことは無いし、そうなれば自分で経験をしないといけないんですよね。ですからターコイズだって創り手だってそうなんですけど現地でのやること成すこと最初はその全てが未知の世界ですから。それはもうターコイズ(石)なんて偽物つかまされたことだって一度や二度では無いですし。アメリカに行くとジュエリー屋だらけですから。それこそ、それっぽいものは沢山あるわけですよ。車で走ってたら初めの頃なんかは自分も憧れてた行きたかった場所に来てるわけですから、気持ちも盛り上がっちゃってますよね。そうすると凄い数のジュエリーがあるので当時はそこで売っているものが全て良く見えてしまうんです。なので初めの頃なんかはそこで売っているものを買ったりとか。そういう時もありました。でも気を落ち着かせて見てみれば売り物にならないものとか(笑) これだけ技術が進んでいる世の中じゃないですか。その上、天然石が枯渇している現状ですからターコイズだって人工石がほとんどです。技術の日進月歩はありますから分かりづらくなってます。すごく精巧になってきてて。だから今だって日々勉強です。どの世界もそうだと思うんですけど、やっぱり日々精進、日々勉強です。
岡崎 僕もうちのお客さん達もそうですけどまだまだ分からないことだらけですし、本当いつも色々と教えてくださって勉強になってます。
今井 百聞は一見にしかずの世界です。どんなことだって本当に興味を持って本当に好きなことならば、自分自身で経験することが一番です。そうであるならば聞くことよりも行動。実際にその目で見て手で触れて実体験を欲する自分がいるでしょうし。お客様に出来るだけこの世界の素晴らしさを知ってもらいたいからこそ、私は今も彼らのいる地に赴きます。私自身、自分の実体験こそがこの世界の素晴らしさをお伝えできる全てだと思っていますから。
世界中のあらゆるものが画面のタッチひとつで何でも手に入る今の時代の中で、当店のような小さな店にお客様が来られて、海を越えた遠くに住む作家達が自らの手で作り上げた唯一無二のジュエリーを手にして下さる。アーティストとお客様との海を越えた繋がりにご縁を感じます。だからこそ作品との出会いを運命的なものと捉え、一生大切にしていただける作品、人生の相棒のようになってくれる作品になる。勿論、作品に寄せるお客様の思いは人それぞれですけれどもね。そんな一期一会の場に20数年携わらせて頂いて私自身、日々幸せを感じる毎日です。
岡崎 僕自身もそうですが、当店でも毎年気持ちを奮い立たせるようなお守りのみたいな感覚で買ってくださるお客さんが凄く多いですね。
今井 量産品と比べますと高価なハンドメイドの品ですから容易に手に入れられるものではありません。お客さまの日々の努力と血と汗と、時には涙の結晶ですよ。ご縁のもとで手にされた作品だからこそある意味ごご自身へのご褒美であり勲章のようなもの。永く大切に愛用していただきたいと常に思っております。繰り返しになりますがその作品に抱くお客様の思いの程は千差万別でしょうが。
岡崎 確かにそうですね。
今井 私はアーティスト、お客様どちらとも接している立場ですので、しっかりとアーティストの作品にかける思いを伝える。そして日本のお客様の思いを海を越えてアーティストに直接伝える。その両方の架け橋のような立場が私だと考えております。
岡崎 今井さんはそうやって時間をかけてアーティストやお客さん達とも絆を深めてきたわけじゃないですか。今井さんだからこそ、アーティストも信頼する。絆があって信頼しているから精一杯良いものを創る。それを知っているからこそ僕らも安心して作品を買える。それってすごい良い循環だと思います。
今井 有り難きお言葉を頂戴しまして幸せです (一礼)
岡崎 ところで、ネイティブアメリカンジュエリーのこのシーンって、創り手の家系じゃないですけど、ネイティブアメリカンの血がしっかり入った人が創るっていうのが大前提としてあると思うんですが、そういう世界だからこそ今後の問題点も出てくると思うんですが。
今井 そうですね。この世界のジュエリーはアメリカが誇る伝統工芸のひとつです。日本の伝統工芸の世界も同じですが、その後継問題に直面し将来その存続が危ぶまれる状況が多々あります。ネイティブアメリカン自体の全体の人口減少もその一因ですが、フェイク、コピー品の存在を見過ごすわけにはいきません。ジュエリーを糧に彼らも生計を立てている。家族を養っているんです。私たちが置かれている状況と全く同じですから。彼らの利となるものを奪う、すなわち生活の糧を奪われるわけですから、後世に受け継がれていくべき機会を大きくそぎ落としてしまう可能性があるものです。それに加えて、今現役で活躍する熟練アーティストたちが若かりし頃と次世代を担う若手アーティスト達が今いる現代とでは時代背景が大きく異なります。先代の人たちは両親の生計を支えるため、兄弟の進学のためなどといった理由で作品創りを幼少期に始めた人がかなり沢山います。生きていくため、家族を支えるため、といった生活環境に置かれ、必然的に創作に携わった人が少なくありません。ただ現代では、彼らの生活レベルも当時に比べ遥かに豊かになり、近代化の波が押し寄せて居留地を離れる若者も数多く、またジュエリー創作といった孤独な仕事に興味を示さなくなってきております。昔と今とでは若者が直面する生きていくための危機感のレベルが格段に違いますからね。
岡崎 このネイティブアメリカンジュエリーの世界が始まったのが、1800年代半ばからの話ですよね。
今井 そうですね。今、私がお付き合いしているアーティストは50~70歳代の人が中心です。彼らは偶然ではなく、生きるためといった必然性にかられて、作品創りに携わらずをえなかった人がほとんど。であるからこそ、”やらなきゃ生きていけない=売れないとお金にならない” ので一生懸命スキルを身につけようと思うわけですよ。そう、危機感を持って、できる限り早く、実体験として。そして家族の生計を支えていかねばならないので。当然、幼少の頃から一日でも早く良い創り手にならねば、と思うのです。例えば、リーヤジーの弟であるレイモンドヤジー(Raymond Yazzie…リーヤジーを兄に持ち、兄同様トップアーティストと呼ばれるナバホ族の巨匠アーティスト)は8歳の頃ジュエリー制作を母より教わり始めたとのこと。下手なものを創ると買ってくれなかったり安かったり、とにかく必死です。出来る限り高く買ってもらうと思って。切迫感、使命感に幼少時よりかられる生活環境。他に居留地内でありつける仕事といったら建設業、石炭採掘業ぐらいなものです。他に産業がないので。そんな、豊かになり仕事も多種多様に選べる今現在と貧しかった当時とでは全然違うとみな口を揃えて言います。ただ実際、都市部では未だに差別の問題もあったりで就労は難しい現実もありますが。そんなことを考えれば、必然的にスキルも短期間で著しく向上し、のちに素晴らしいアーティストが生まれる環境が当時は貧しいが故に整っていたと言えますね。1970年代の高度経済成長時代の日本と重なるところがあるようにも思います。
岡崎 簡単な言い方になりますが、ベテランアーティストと若手アーティストとではスタートラインもモチベーションも違うってことですよね。
今井 作品を創るのは簡単ではないですからね。スタジオの中で自分一人の孤独な世界です。その中で生みの苦しみを常々感じてきているのがベテラントップアーティストたちです。考えに考え抜いて作試行錯誤の上、ひとつの作品が出来るわけです。そんな苦しみを経て生み出されるのがアートの世界だったりしますね。自分との戦いなんですよ。それを生涯長きにわたり創り続けないと一部のトップアーティストに上り詰めることなどできません。私も彼らの作品に常々触れてきて、頭がさがる思いです。またアーティストを作品を通じて学ぶべきことは多くありますね。次を担う若者は、自分の祖父や父の背中を見てますし大変なのは当然知ってますから出来るだけそこは避けて通りたいと…。なるべく簡単で合理的な方法をとりたいと…。今の若者に限らずどんな時代でも私も含め、それが人の常ではありますが。画面を開けばすべてが簡単に手に入ると勘違いしてしまいそうな時代になり、技術的なこと、デザイン、売れるもの、形とかそういうのって、今はコンピューターが教えてくれると思っている人が大部分。自分で考えようとか自分で生み出そうとか、こう試したらこうなるんじゃないかといった、トライ&エラーの時間や、新しい物事や作品を生み出す元来人間の持つ創造性。とても大切な部分を磨こうとせず省略し、いとも簡単に手に入れようとする。手に入れた気になっている。一段一段コツコツと上がって行かねばならないはずの階段を二段飛ばし三段飛ばしをしようとするんです。だから技術のさらなる向上もなければ、デザインの幅も限られた狭い視野の 「どこかで似たデザインの見たような..」 になる。やはり自身で経験を重ねないと薄っぺらいものになります。それが今の時代の弊害でしょう。何事も人から聞いた100のことよりも自分で経験したひとつのことの方が大事だと自分は思っています。時代は進化に進化を重ね、私が幼少の時とは大きく時代背景が変わりました。私が成人を迎えた頃でさえコンピューターも携帯も身近なものではなかったので身体がそこに今でも全く馴染んでいない。あえてそこから距離を取ろうとする自分がいる現実(笑)ですからすべてのモノ、コト、がタブレットやオンラインで手に入るというのはこれっぽっちも思っていないですし、自分で体得したものこそが本当に役に立つことであり、そうでなければ意味がないと思い込んでいる節もあります。ちょうど時代の大きなうねり、過渡期に生まれた世代の人間の性なのかもしれないとさえ思っています。
岡崎 だからこそ今井さんは現地に行くし、そこで失敗も経験してるんですね。今井さんが今おっしゃったことは確かにこの世界だけじゃなく、どの世界にもあてはまることですね。ただ、特に血縁関係が重要視されるこのジュエリーの世界は技術の低下もアーティスト数の減少も非常に大きな問題ですよね。誰でも受け継げるという世界では無いですもんね。
今井 他部族間同士の結婚というケースは以前からありましたが、今は時代が変わりましたからね。白人と結婚すれば生まれてくる子は当然ハーフ。ネイティブアメリカンの血という意味では半分です。本国でも明確な取り決めはまだないですが、ネイティブアメリカンとは…または、ネイティブアメリカンジュエリーとは…の再定義が遠からず将来強いられるはずです。そういった意味で時代の節目に差し掛かっているのは現実ですね。
岡崎 そんなことを聞くとなおさら、当店としても大切に扱っていきたいし歴史背景や現状も含めてしっかりと伝えてべきだと思いますね。
今井 現代、そしてこれから先も、人間そのものが介在するモノ、コトがさらに減少していく時代にあっては、必ずその反動、つまりはあらゆる人の手で創られた創り手の思いをそこから汲み取れるものが重宝されて今よりさらに光り輝き、人々を惹きつける時代は必ず来ると思います。この世界の主役は人間と自然ですからね。人でなければ出来ない弧を描く美しいカーブや艶やかな美しいラインは決して無くならない。感動を与えてくれる素晴らしいモノの多くは歴史を持ったその国独特の伝統や文化であったりするものだと私は思っています。そして祖先がそうであったように人の心に突き刺さる、五感を刺激する美しいもの。その多くは自然界からの恩恵であり、それを人が学び人に感銘を与える。今、人の手や気持ちが介在されていないものの多くは、大量消費、浪費社会が産み出した象徴でしょうから。
岡崎 それは洋服にも言えることですね。
今井 それに思い入れを持てって言われてもねぇ(笑)
岡崎 確かに。そのものから伝わる思いが無いければ手にする僕らも長く大切にしようとは思いませんもんね。これは、最後の質問なんですが、今井さんにとってネイティブアメリカンジュエリーの最大の魅力ってなんですか??
今井 人の手によって生み出された歴史と伝統、文化に裏付けされた唯一無二のものであるところでしょうか。日本にだって世界に誇る後世に受け継がれていってほしいと願ってやまない素晴らしい伝統工芸品が多数存在しますが、私は若い時にたまたま興味を持ったのがこの世界だった。ネイティブアメリカンジュエリーの最大の魅力は、人間味溢れるジュエリーであるということに尽きると思います。この世界のジュエリーが私たちに訴えかけてくることは、現代において人間が失いかけつつある人の大切な核となる部分なんじゃないかと。そうじゃないぞって。人間そうあるべきだろって。
手間暇をかけて時間をかけて丁寧に1点づつコツコツと。彼らの作品からは日本人の美徳に似たものを感じるんです。こんな情報社会なんで彼らも量産の技術なんてとっくの昔から知っています。でもあえてその方法にいかない。「ネイティブアメリカンジュエリーは先代の人たちが残してくれたかけがえのない我々の象徴のひとつ」と尊敬の念を持って先代より伝わる製法、技法、手法を大切にし、それらを進化させつつも誇りを持って手作業で生み出されている。そんな至高のジュエリーは、私にとりましては生涯の宝物です。
岡崎 情熱のこもった貴重なお話をありがとうございました。この対談を通して人としての大切な部分まで教えていただけたような気がします。今後ともよろしくお願いいたします!
今井夫妻 こちらこそです!
【対談:2017.12.28】