このコンテンツを始めるにあたり、まず最初にお願いするのはこの方、と決めていました。
「SLOW&STEADY」の内装全般を手がけていただいた菊池さん。その菊池さんが営む代官山「HIGH-LIGHT」にてお話をうかがいました。
岡崎 お久しぶりです。今日は宜しくお願いします。
菊池 こちらこそ宜しくお願いします。
岡崎 早速ですが、内装に店鋪運営にと、かなり忙しい毎日を過ごされてると思うんですが、いまはどんな仕事をされてるんですか?
菊池 今はね、銀座のレストランの改装とか。既存で最初に作った所なんだけど、業態変更で本格的なレストランにするっていうので厨房メインに基本フル改装になっちゃいましたね。
岡崎 それは菊池さんが全てやってるってことですか?
菊池 そう、デザインと施行。ただ現場に行って管理してるのはうちのスタッフで…
僕はどちらかというと実作業メインでやってます。基本デザインや材料発注、あと左官したり はつったりだとか。
岡崎 相変わらず忙しそうですね。
菊池 結局現場があって、あといまナイジェルケーボンの新店舗もあるんですけど、そこは設計とデザイン。スケッチだとか。平行して新しくレディースラインが出来て…。で、ルームス各伊勢丹の催事場のスケッチとか。
岡崎 この前、出口さん(ナイジェルケーボン代理店勤務)が店に来られて…。
菊池 あ~、行ったって言ってた言ってた。
岡崎 店にあるベンチ見て、「これほしかったのに~」って言ってました。
菊池 あはは(笑)。出口さんともお付き合いが長いんですよ~。仕事は勿論やるんだけど結構大変なんだよね(笑)。あと某ブーツブランドの直営店のデザイン、設計、施行もあったりで。結局そんなこんなで現場張付けないんだけど…。あ、それとまた洋服作ってんすよ。
岡崎 電話で毎回言ってますけど…(笑)。
菊池 そうなんだよね、僕も凝り性なとこがあって。サンプルあがって来たんだけど…なんだかしっくりこなくって。前に話したパンツね、あれボツにしてまた新しく作ってます。生地から変えてね。
岡崎 マジっすか。いつぐらいのデリバリー予定ですか?
菊池 形は決まってるんだけど…シャツとパンツとで年末には出来そう。タイミング考えたら1月~2月かなあって。
岡崎 キャップもですか?
菊池 キャップはね、これもいつも言ってて出来てないんだけど、本当は割と早く出来るんですよ。1ヶ月ぐらいで。すぐ作れるんだけど、なかなか打ち合わせに行けなくて…。強引に「いついつ来てくれ」っていうクライアントがいれば時間は作って行けるんだけど、こっちから出向くからどうしても後回しになっちゃって…。
でも早く作ります。これは年内に。秋口ぐらいにはなんとか。
岡崎 今まさに秋口ですけど。
菊池 そっか。じゃあ秋中(笑)。
岡崎 でも店がオープンしてまだうちにあんまり商品が無いときに、お願いしたら大量に送ってくれた時は本当助かりました。AGRY…うちでは特にショートブルゾンの人気が凄かったです。
菊池 有り難いです。頑張って作ります。
岡崎 内装の話に戻るんですが、僕の勝手な解釈なんですけど、菊池さんの内装は什器であったり塗装であったり全体的に男らしい無骨なイメージなんですね。でもその中にどことなく温かさや高級感みたいなものも混在していて、結果すごく絶妙なバランスでカッコいい空間が造られてる気がするんです。菊池さんが内装を手がけるにあたって一番大切にしている事があれば、ぜひ聞いてみたいんですが…。
菊池 一番大事にしてることは、例えば…、これよくミュージシャンなんかがよく言ってるのを聞きますけど、ジャンル分け、カテゴリー分けされたくないなって思ってます。
岡崎 ブログでも少し書いてましたよね。
菊池 そう。なんて言うんだろ‥。インダストリアルっていう什器をたくさん持ち込んで堅く造ったにしても、やっぱり柔らかさっていうのは絶対に足してあげてそれだけじゃない雰囲気にしたいし…
菊池 例えば20~30年代のイメージに特化してやってくれって言われても完全にレプリカにして造るのが嫌だから、ちょっと壁をレトロタイルにして逆に清潔感を出したりだとか、必ず何かを足すようにしてます。パッと見て「あ~こんな店なんだ」って思われないように。側(がわ)だけで言うとそうなんですけど…。あとは岡崎くんにしても、オーナーさんが持ってる雰囲気や、打ち合わせで出てくるものってあるじゃないですか。それを念頭において作っていくって言うんですかね。
岡崎 はいはいはい…。
菊池 ひとつのモノに固執したくないっていう感じですかね。
岡崎 じゃあ、もうひとつ聞きたかった事があるんですが、僕の店の話になるんですけど、いいと思って仕入れた服でもなかなか売れない物も中にはあるんです。で、その服を出来るだけ毎日触ってやるんです。なだめるように(笑)。するとなぜかすっと売れていく。長年やってるんでもう僕の中でジンクスになってるんですが、菊池さんもそういった仕事の中でのジンクスみたいなのってありますか?
菊池 うーん…そうだなあ。僕に限らずこれは世の中のみんなが持ってる事だと思うんですけど、感謝することですかね。そういう風に思うきっかけがあって、「神社やお寺にお参りに行った時はお願いをしに行くんじゃなく感謝を述べに行くのが正しい」って教えてくれた人がいたんです。
岡崎 大事なことですね。
菊池 以前にもこの話したかもしれないけど、工事中はバタバタでそれどころじゃなくなっちゃう事も多いから、最初は必ず感謝の気持ちで入るようにしてます。あと、仕上がりまで伝えなくても大丈夫な職人さんにも、工事の最中からイメージを持ってもらう為に仕上がりを伝えたり。きれい事かもしれないけど工事に携わった人皆でいい店になればいいねって思えば
きっとそういう念なり気持ちなりが入って、出来上がってからもうまくいくお店になるんじゃないかって僕の中で思ってて。側だけ造ってカッコ良くして終わりとかじゃなく、商売がうまくいきますようにって。気持ちの部分で皆にそういう意識を持ってもらうようにしています。質問から少しずれたかもだけど。
岡崎 でも菊池さんがよく言われてることですよね。「念が宿る」って。 だから僕も気持ちよく店のペンキ塗れましたもん(笑)。それとつながる話で、前にお酒をご一緒させていただいた時に「四国行ったことないし、仕事したいな~」なんて思ってたら、僕から飛び込みで電話がきたり、場所に限らず「これしたいな~」とか思ってイメージしてたら、なぜか実現するって話してたじゃないですか。そのこちらからは行かない、”待ち”のスタンスって昔っからですか?
菊池 基本全て自己責任で完結させたいんですよね。例えば昔物販やってた時も接客あんまりやってなかったんですよ。買いたい人が買ってくれればいいやっていうスタンスだったんだったんですけど。なんかわかんないけど良かったら買うじゃないですか。興味があれば質問も来ると思うし。
待ちスタンスっていう訳じゃないんだけど、自分が欲しくて物を買うとか仕事を依頼するとかってその人の分野であって欲しいんですよ。こちらが言うことでは無いかなと。
岡崎 個人を尊重されてるんですね。極端な話、営業しちゃったら相手側から来た依頼に比べると100%純粋な物ではなくなりますもんね。
菊池 それでずっと来たんです。だからそのままの流れで今の内装業になっても似た様なスタンスになってんのじゃないかな。
岡崎 僕はそこまで詳しくないですが、その古着やってた頃のハイライトもその業界では有名だったじゃないですか。
菊池 まあ最初の頃はそうでしたね。
岡崎 そこから内装に移行したきっかけは何だったんですか。
菊池 そこはさっきの話からの続きで、無理せずゆっくり構えていきたいというか。内装に限らず僕の人生観全てなんですけど、自然体でいきたいというかね。当時、お客さんに設計とか内装に携わる人が多くてデザイナーもなんだけど、そこで世間話したり仕事の話聞いたりしてるうちにやってみたいな、僕にもできんじゃないかな、なんて思うようになって。基本自分でやるのは嫌いじゃなかったし、それまでも自分の店は自分で造ってきたから。たまに友達の大工さんを呼んだりもしたけど。
岡崎 そういえば以前お話になっていたBARの話、進んでるんですか?個人的にすごい楽しみにしてるんですが。
菊池 そう。BARは本当にやりたくて、いい出会いさえあれば。予算的な所もあるけど少し無理してでも今すぐにでもやりたい。何より自分が思うままに作りたい。
岡崎 お店を、ってことですよね。
菊池 そう内装。
岡崎 菊池さんもお店に立つんですか?
菊池 僕も立たないと意味が無いと思って。で、もしもそうなれば今やってる建築業を少しだけペースダウンしてもいいかなと思ってます。施行はどこかにまかせて、僕はデザインと設計を昼の間にそこでやって、夜はBARとして営業して。
岡崎 結構ハードそうですけど。
菊池 まあハードだけど今もたいして変わんないしね。朝8時から現場行って夜8時くらいまでやってるからね。まぁ仮に現場の仕事が無ければ朝8時に行かなくてもいいしね。もちろん施行もやんないことはないにせよ、もう少し数を減らして…。
岡崎 施行数も多そうですもんね。
菊池 最近はコンスタントですね。そこはある程度コントロール出来るようになってきました。小さい案件がかぶってしまったりして首回んない時もたまにあるけど、あんまり間が空かないというか。
岡崎 これを見てくれている人の中にも、きっとこれから何かやろうとしてる人がいると思うんですが、菊池さんからアドバイスとかメッセージはありますか?
菊池 ああ、それは岡崎君ともよく話す事だけど『イメージ』かな。細かい所まではいらないけれど大雑把でもいい、自分のやっていきたい事にイメージを持てるかだと思う。イメージ出来るなら尻込みなんてしなくていい訳だし。逆にイメージが涌いてこないならやめた方がいい。やりたいってだけじゃ無理だもんね。先には自分はこうなってるだろうとか、こうなっている筈だっていう確信とかあった方がいいと思うんだよね。
岡崎 確かに。じゃあさっきのBARのイメージも菊池さんの中である程度固まってるってことですよね。
菊池 もうめちゃめちゃある(笑)。キャスティングまで決まってるもん。どんな立ち位置で俺がいるのかまでね。それに別にそれって空想物語でもいいんですよ。あと実務的なことって覚えれないことなんか何も無いでしょ、世の中に。
菊池 今から建築士の免許取れとかってのはちょっと厳しいけど。だからこそイメージが大事だと思うですよ。気持ちの部分というか…。
岡崎 僕は店を始めてから、ルーティーンワークに関しては自分の責任で全てを行っているんですが、もっと大きな枠で全体の運営としては菊池さん含め周囲の人達に支えてもらってる部分がかなり大きいなと感じています。うちの店を気に入って来てくれるお客さんにもそれはもちろん言えることで。
特に僕は頭の中で良いイメージが出来ていても、すぐネガティブな方向に進めて考えてしまう所があるし。そういう部分でも、自分が感じている以上に周りの人の力が僕を軌道修正してくれている気がするんです。
SLOW&STEADYと縁(ゆかり)を持っていただいている方々と対談する、というこのコンテンツも僕発信のものではなくて、WEB全般を担当してくれているサポートメンバー中心の案でした。「岡ちゃんはただ、岡ちゃんが訊きたいことを喋ってきてくれればいいから」って(笑)。 僕が好きなことを自由に出来る場所を作ってくれてます。
菊池 それはみんな、僕だってそうですよ。イメージ先攻でやるけど、振り返ると必ず誰かの助けがあって。それがないと出来てないよ。
ここ(代官山)出したときだってスタッフに随分と助けてもらったし。高円寺の古着屋時代も振り返ってみるとスタッフとか周りの力が大きかったですよね。高円寺時代に、どういうわけか職人の友達が多く出来たんで今の仕事にもそのころの友達がかなり活躍してくれてますよね。
最近分かったんだけど、内装にしてもなんにしても良いチームだったなって思った時は結果もついてきてるし。チームの力も重要。
岡崎 なるほど。 チームとしても菊池さんはとても恵まれているんですね。ぼくもそこに関しては同じく恵まれているんだな、と感じます。
菊池 そう…。だからちゃんとツジツマがあってる気がするんですよね、人生って。失敗するのも損するのもきっとそうなる様に。自分に何かしらの原因があってそうなってるから。逆にうまくいくのも自分が何かしら努力した結果だろうし。「すげー俺ってついてねー」なんて言う奴は、損してる理由があるんだからきっと。最初からついてない奴なんていないと思うし…。
岡崎 あの…、めちゃめちゃいい話だと思います。
菊池 本でも書こうかな(笑)いや…、とりあえずブログちゃんとやろうかな。
岡崎 そうっすね。とりあえずもう少し更新して下さい(笑)。
菊池 いやiPhoneに変えてから写真がうまく載せれなくて(笑)…ところで、梨どうでした?
岡崎 いや売る気満々で木箱に山盛りにしてたんですけど、結局お客さん達にほとんどあげました(笑)。いいんですけどね。喜んでくれてたし。梨に限らず農作物とかは混ぜていきたいし。それこそ菊池さんの言ってた「イメージ」っていう感じで。
菊池 果物があるなんていい店じゃないですか。最初聞いた時から思ってたけどいいコンセプトですよ。
岡崎 ありがとうございます。これは以前も話した気がするんですけど、僕は田舎の農家で育って、徳島の洋服屋さんでずっと働いていて、結局1回も 外に出てないんですよ。 例えば都会のセレクトショップとかで経験積んだりもしてないし、洋服の学校に行って専門的なことを勉強したわけでもない。
それが昔はコンプレックスだった時もあったんですけど、今はそれも自分の強みかなって思ってます。田舎だし、農家だし、かっこつけずにそこは大事にしてもいいのかなって。自分がいいと思ったものを、マイペースに。
菊池 いいと思いますよ本当に。ある意味ね、岡崎君って達観してるんですよね。自分こともお店のことも。それってひとつのイメージじゃないですか。自分はこうだからこうって。そこらへんあやふやな人も多いし。だってわざわざ俺みたいなところに内装頼んで…、窓口としてあまり開けてるほうでもないしね。ほんとに大丈夫なのってなるでしょ(笑)。ストレートなんだけど、そこまっすぐ来るかって感じで(笑)。
岡崎 なんか…ありがとうございます(笑)。…最後に、個人的に僕は菊池さんのその自分の好きな物や好きな事を迷わずに貫いている姿勢にすごく憧れがあるんです。と同時に、とても難しい事だとも感じています。ファッションでも何でも良いので、流行や今の時代の流れみたいなものについて菊池さんはどう捉えているのかお訊きしたいです。
菊池 流行。…結局意識しなくていいものだと思う。意識しちゃいすぎるとつまんなくなるし、サーフィンと同じで大きな流れは感じながらも自分で乗る波は選んでいけばいい。
岡崎 貴重なお話を今日は本当にありがとうございました。
菊池 こんなので本当に良かった(笑)?
【対談:2013.09.02】