岡崎 去年金沢に2店舗目の直営店を出されたと思うんですけど、自らが作って商品を売る場所でもある「実店舗の在り方」について何かあればお聞かせください。
東野 お店の在り方ね、、やっぱそこで全てが出るっていうか、さっき言ったみたいにお客さんといろいろ会話を交わせる所でもあるし。 僕は実店舗はすごい大切だと思ってて、表現できる全てのものが実店舗には詰まってる。それは洋服だけじゃなくてレイアウトなんかを楽しむ事だってそうだし、ブランドとしての世界観だったりとかスタイル全てをそこでリアルタイムに様々な人に見せて行く事ができる空間だと思うんで。やっぱりいくらウェブのページをガッチガチに作ったところでそこの先までは見えないから。それを自分の目で見て触れて体現できる、っていうのはやっぱりお店でしかできないのかなぁって。まあ、この先変わってくかもしんないけどね時代で。お店がショールーム的扱いになってくる時代も来るかもしれないしね。そうなったらそれはそれでいい所もあるんだろうし。そこに行ってショールームとしての空間の中で試着して、生地感を確認してウェブで買うって人もいると思うんですよ。それはまあ今の時代だなと思うし。でもやっぱり、足繁く店に通ってくれるお客さんがいてローカル感というか、そういう感じはずっと残していきたいなぁと個人的には思うんです。あと最初にフィグベルを立ち上げた時、長くブランドを継続させたいっていうのがあったから絶対実店舗は必要かなって。
岡崎 僕も店で若いお客さんと話してるとたまにギャップを感じることがあるんですけど、ニュークラシックって、古いものにフィグベル流のエッセンスを加えるっていうコンセプトなんですよね。そのクラシックっていう用語自体が16年前と今では若い子の世代で変わってきつつあるのかなぁと思って。委託屋さんとかで売られてる中古品が古着って言われたりする時代で、クラシックの定義が少しずつ変化していってるのか??って。そういった中で、お二人も若い世代とのギャップとかって感じたりする事はあるんですか?
東野 んー、そんなん感じないかも、、、 感じる?
田上 ギャップを感じる事はあんまりないかも。そもそもすごい若いお客さんが少ないってのもあるけど、お店に来たり、誰かを通じて繋がったりするような若い子だとどこかクラシカルなものが好きだとか、それ以外でも根本的に共通する部分が近かったりするんですよね。
東野 それと、今の若い子とかもう何でも刺激になると思うんだよね。格好いい、格好悪いじゃなくて、こんな物があるんですか、って。あとクラシックな中にも今の気分もちゃんと入れようって思ってるので、そこでまた通じ合える部分もあるのかもしれない。これがガチガチのクラシックをやってたらまた話は変わってきてたのかも。僕達もガチガチのクラシックを一から勉強してた訳でもないし、クラシックの定義語れって言われたらちゃんとした答えってバシッと出るのかなって。そこを求めた事がないから未だにわかんないですよ。漠然とクラシカルな雰囲気が格好良いから好きなんだって所から始まってるんで。そこはなんか自由でいいんじゃないかって気もします。決まり事がたくさんあって、ガチガチのうんちく語られるのもお客さんからしたら辛いじゃないですか(笑)
岡崎 僕が感じてるのは、濃くてゴリゴリの感じと、今の流れを汲み取った感じと、ちょうどそのど真ん中をちゃんと舵とって作られてるなぁといつも思ってて。
東野 あ、それを感じてもらえてるんだったら、すごい嬉しい。
岡崎 そこはやっぱりコントロールされてるんですか?
東野 そうだね。意識してるかな。多分、僕達皆そこ好きだから。どっちも好きなんですよ(笑)おそらくガチガチのクラシックだけでも固められないし、塩梅ですよね。ちょうどいい塩梅っていう事をやりたいっていう感じですかね。
岡崎 それがフィグベルっていうブランドに対して、僕なんかはいちばん魅力に感じてる所なんです。
東野 いやー、もうそれなら本望ですけど。けどそこを一番って言って感じ取ってくれる人って少ないと思うんですよ。曖昧な部分だからわかりにくいじゃないですか。
岡崎 でもそのど真ん中を走ってくれて、ショップ毎にコーディネートや表現の仕方も委ねてもらえてる感じがすごいするんでそれはありがたいなって思うんですけど。
東野 逆にこういうブランドの方が少ない気がするんですよね。
岡崎 かなり少ないと思います。
東野 それをなかなか感じてもらえるのって難しい。だから直営のショップとか実店舗がないといけないと思うし。岡崎くんみたいなスタイルでお店をやってる人達っていうのは凄く通じ合えてるので安心して任せてます。
岡崎 東野さんが思う、良いブランドの定義って何ですか。
東野 んー、、僕の好きな感じは、なんかこの人ってこういう物が凄く好きなんだなっていうのが分かるブランドが好きですね。別にそれはスケートブランドでもいいしストリートだろうがなんでもいいんだけど、この人本当にここが真剣に好きなんだろうなっていう匂いがするブランドは好きかも。
岡崎 あーなるほど、なんか人間臭いというか、そういうのが好きなんですか。
東野 うん、だからやっぱりフランクリーダーとかは、この人ってこういうの好きなんだろうな、っていうのが凄く伝わってくるブランドだから、かっこいいなと思いますよ。だけどなんとなく作ってる物って、あまりそこは伝わってこないですよね。
岡崎 それって物を作り続けてる東野さんだからこそ感じる事ですよね。
東野 あ、そうだ。この前20歳と22歳の子が作ってる洋服を見る機会があって。若いでしょ?でね、凄い良かったんですよ。その良かった部分が正にそこで、この子達はこういうのが好きで表現してるんだなっていうのがよく伝わってきて。20代前半でこんなに作れるんだと思って、うわぁってびっくりした(笑)荒削りな部分はそりゃあるんだけど、そこは一旦置いといて。ただ洋服が好きで自由に楽しんで作ってるんだろうなっていうのは感じた。やっぱり気持ちが出てる物って良いなって思いましたね。逆に、単純にビジネスとして今はこういう物が人気だからこれを作っていきましょうって感じで作られた物って、やっぱりそれまでの物にしか見えない。
岡崎 なるほど、では最後の質問なんですけど、16年続けるってぶっちゃけ凄い事だと思うんですよ。これだけ速い流れの中でやってきて、16年経ってまた直営店やるとか本当に少しずつ同じ事を繰り返し続けているっていうのは簡単にはできない事だと思うんです。そういう東野さんが思うフィグベルの在り方って?
東野 オリジナリティじゃないですかね。自分たちのオリジナリティだったりアイデンティティ的なものを、続けて行く中でちゃんと確立できて、それを先に繋げていく事が出来るのがちゃんとしたブランドなのかもしれないと思うんですよね。スタイルあるブランドが自分達も格好良いと思うから。何をやるにしてもブランド自体のオリジナリティがあればいい。そこが初めてやったとかそういうのじゃなくて、しっかり好きなものが伝わってくるオリジナリティ。だから同じようなブランドってたくさんあるじゃないですか、似たジャンルだとか。そんな中でどれだけオリジナリティを持って作れてるか。表面的な所じゃない内面的な所で。
岡崎 僕の大好きだったミルトラウザーを、うちの別注として復活させてほしいという話を歩くんと米山さんにするの、実はずっとビビってまして(笑) 今もう出てないじゃないですか。そこをもう一回復活させてくれっていうのはどんな風に思われるかな、、と正直言い出しにくかったんですけど、、
田上 全然大丈夫ですよ!今後出てくる可能性だってあるし、ミルトラウザー自体、今でもユーティリティトラウザーとして継続させてますから。シルエットこそ当時ほど太くはないですけど(笑)
東野 ディテールのマイナーチェンジだったり今の気分は前の形に近い方がいいなとか、そんなのがずっと続いてるアイテムの1つだもんね。でもリーバイスなんかのデニムだって岡崎くんは66が好きだけど、僕はXXが、っていうのはあるでしょ?だからそういうのは全然気にしないでほしい。しかも今回更にM47のディテールを入れたりとかで、また新しいものをやってるから。楽しみですよ。
岡崎 僕もM47っていうのは今の僕のお店のテイストがちゃんと入ってて面白いかなって思ってます。
東野 まあ岡崎くんも長いもんねぇ。
岡崎 長い方ですよね(笑) でも自分で経営してお店を始めてまだ5年なんで、思ってたより大変だったんだって身にしみて感じる部分も多々ありますけど(笑)
東野 でも凄いですよね。外からって誰でも何とでも言えると思うんですよ。でも実際それをやるとやらないでは全然違う。やってみないと見えない事ってあるんだよね。
岡崎 嬉しいのは、前の店の時からのフィグベル大好きだった人達が過去に今まで買ったアイテムに何を合わせてやろうってお店の中でワイワイやってる感じが凄く嬉しくて。もちろん中には今も昔もフィグベルしか買わない方もいるんですけど。色んな人達がひしめき合ってあーでもないこーでもないみたいな。うちでは洋服オタクに見えないギリギリのラインを狙ってコーディネートするのを薦めたりしてます。洋服オタクになると女の子にモテないでしょ(笑)
東野 なるほどね。
岡崎 おじさんで流行りもの全身着てます!みたいなのもモテないし。だからちゃんと自分の好きな物も表現しつつ、振り切りすぎてない、それこそ難しい曖昧な所なんですけど。だから全身着てても、男にもモテるし女にもモテる、男女にモテるっていうのが最高の合わせなんすよ(笑)
一同 笑
田上 女性でも、うちの服が好きで買いに来てくれる方も多いですよ。旦那さんにここの服を着てもらいたいから来たりとか、カップルで来て、彼女はそれがいいって言うんだけど彼氏の熱はまだそこに達してないっていうパターンとか(笑)奥さんや彼女に取られるパターンもよく聞きます。実際僕の家でもそうなんですが(笑)いずれにせよ、男女ともに好きになってもらえるのは嬉しい話ですよね。
岡崎 真面目に試行錯誤して本当に凄くいいところを走ってくれてるので、その結果だと思います。女の人が見ても格好良いってなりますもんね。今の流行っぽいモテ服じゃないのに男ウケだけじゃなく、 女性からもしっかり格好良いって言ってもらえる。そこがフィグベルの強みだなって思いますね。
東野 単純に嬉しいですよね。やっぱり、男はいくつになっても格好良いって言われたいですからね(笑)
一同 笑
【対談収録:2018年9月】【PHOTO: OKAZAKI】