S&S / BLOG Jul 28, 2018
Text:OKAZAKI MASAHIRO
Photo:Kenta Kannae
何がかっこいいのか、何が良いものなのか。100年以上前のモノから学ぶべきことは沢山あります。
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100年前の時代からやってきたすごいヤツ

当店の片隅に鎮座するこのいかにも古そうなデニムジャケット。この歴史を感じさせるこのデニムジャケットには “ファッション” としてではなく “着る物” としての魅力がぎっしりと詰まっています。今回は変わり種ともいえるこのアイテムについて僕の分かる範囲での説明と、思うことを書いてみようと思います。

『プリズナー=PRISONER(囚人)』と銘打たれている通り、当然ですが当時の囚人が着るために作られたものです。プリズナージャケットといえば、PW ※ Prisoner of Warの略(戦争捕虜となった人たちを識別するためにPWと書かれたステンシル)入りなどはヴィンテージ市場でも有名ですが、それと同類のこのジャケット。当店が信頼するディーラーさん曰く「もう2度と目にすることはないでしょう」というほど、現代においては非常に希少性の高い一品です。

大雑把な作りの裏側

驚きなのが、当店で扱っている現代の洋服にはありえない大味な作り。左右の袖も全く違う作りのパッチワークになっています。特にプリズナージャケットなんかは生地のダメージも酷く、つぎはぎだらけの個体をたまに見かけますが、これに関しては最初からパッチワーク仕様という非常に珍しいタイプです。

全くシェイプのないドカンのような袖口に対して、ボタンやアジャスターも一切ついていません。これは僕の想像ですが「どんな体型でも誰でも着られる」ってことを優先した結果、このような汎用性の高い袖口の仕様にしたんじゃないでしょうか。

いびつなポケット

裁縫好きの素人が作ったような、このいびつな形のポケットもたまらなく愛くるしい僕のお気に入りポイントです。なぜか当たり前のように左右非対称。胸の細長いポケットは当時「ロウソク」を入れておく為だというのが通例みたいですが、今となれば本当の答えは誰もわかりません。

使用している生地について

ジャケットを裏返せば、このジャケットが生まれた時代背景なんかを断片的に垣間見ることができます。ほとんど全てのパーツ(生地)の縫い合わせ部分に”セルビッチ=耳”がついています。

旧式の力織機で織られた生地の端部分に必然的に生まれるこの “セルビッチ=耳” 。現代では洋服の拘りを現したり、旧式の力織機で作られた証としてあえて残していますが、当時は旧式の力織機で生地を作ることが当たり前の時代。当時の洋服作りにはこのセルビッチ部分(生地の端部分)は不必要で通常使わない部分だったんでしょうね。

そんな余り生地を集めて縫い合わせているから、このジャケットに使われているほとんどのパーツにセルビッチがついている。先ほど書いた左右非対称の袖やポケットなんかと合わせて考えれば、このアイテムが当時の余剰生地で作られたアイテムだという考え方が限りなく正解に近いのではと思っています。

誰が作った??

このアイテムに関して、ディーラーさんも含めて話をしたり調べたりはしたのですが、確実なのは1920~30年代のアメリカ製というだけで、それ以外はあくまで想像でしかありません。ただ、ここまでランダムで手作り感満載のこのアイテムを見るに、当時の有名ワークメーカーがOEM(業務委託)で作った物ではないと思います。僕の中では、ある程度ざっくりとしたパターンを元に、民間のメーカーが簡易的に作っていたというストーリーがしっくりきます。

どんな一流デザイナーも決して作れない魅力

ここまで散々、このアイテムに対して「余り生地」だとか「簡易的」だとか書いてきましたが、ここからはこの奇跡的に当店にやってきたこのデニムジャケットの魅力について僕なりに。

僕は、このジャケットの最大の魅力は「売るために作られていないリアルな洋服」その一言に尽きると思います。当時は余り生地だったかもしれませんが、今では稀少な当時の力織機で時間をかけて織られた生地は現代に生きる僕らからすれば非常に価値のある素材です。歴史を重ねながらも状態良く残る色合いや風合い。今ではアンティークとなった雰囲気の良いメタルボタン。左右非対称の袖やポケット。なんとなくすっきり着れるシルエット…どんな一流デザイナーが狙っても決して作ることのできない偶発的なデティールの数々はそれら全てが新鮮かつ趣のある佇まいを放っています。当時の流行ファッションの事など一ミリも考えられず生み出されたこのジャケット自身、自分がかっこいいと言われる日が来るとはまさか思っていなかったでしょう。

生まれた時は囚人服であり作業服。それが時を超え、真似のできない圧倒的な存在感と重みを兼ね備えて当店にやってきました。実用性を重視し、当時の社会的背景により生まれたこんなアイテムだからこそ、100年以上たった今でも遜色なく着用できるんじゃないでしょうか。この一着から「永く着れる物ってなんなんだろう?」洋服好きなら一度は考えたことがあるであろうこの問題。その答えに一歩迫ることのできる大きなヒントが詰まっている気がします。

当店で扱っているネイティブアメリカンジュエリーと感覚的に近く、長い時間をかけて環境に合わせた経年変化を繰り返したビンテージアイテムというのは一枚一枚それぞれに歴史があり色合いや風合いも様々です。現代の洋服と組み合わせて着てみてください。歴史を背負うじゃないけど、普段よりぐっと重みのあるコーディネイトが完成するはずです。

ヴィンテージアイテムのお直しについて

当店は状態が良く、まだまだ着用可能なヴィンテージアイテムを中心に扱っていますが、それでも古いアイテムだと生地の劣化などで破れたりほつれたりして「着たいけど着れない」ってことが起こりがちです。もし信頼できるお直し屋さんが近くに見つからない場合は、いつでも当店にご相談ください。

(ご質問などは mail@slow-and-steady.com もしくは、公式LINE@にて受け付けております)

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岡崎
この記事を書いたひと
岡崎 昌弘OKAZAKI MASAHIRO | sas_okazaki
1981年生まれ SLOW&STEADY 代表。18歳の時より地元の古着屋へ勤務。その後同じく県内のセレクトショップ勤務を経て2013年「SLOW&STEADY」をオープンさせる。
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