今回は私が大好きなジャケットを紹介する。毎シーズンパリでも展示会を行い国内外のコアなファンを獲得している、KLASICA(クラシカ)が定番的にリリースしているVESSEL(ベッセル)というモデルである。
今年リリースされたアイテムには、コットンを基調に、ヘンプとリネンを高密度に打ち込んだ交織(※種類のちがう糸をまぜて織ること)のギャバジン素材が使用されている。耐久性、抗菌性、吸湿性を備えた天然素材で張りを存分に持たせたビンテージを彷彿とさせる佇まいがなんとも言えない。
元ネタは19世紀オランダの漁師が着ていたワークジャケットなのだが、古いものは以前も紹介したモールスキンと呼ばれる生地を使用していたりしており、状態の良い個体であれば10万以上で販売されていたりする。
スタッフや常連さんのなかでも人気の高いこのモデル、当時の漁師が雨風を防ぐための仕様なので身幅はゆったりしており、ショート丈でボタンが多いことも頷ける。その当時のアイテムを再構築したのがこのアイテム。サイズバランスなどは当時の雰囲気を保ちながら現代に合わせられている。
古い洋服のシルエットを眺めていると、基本的には適材適所。実は合理的な理由が存在する。そんなことをあれこれと調べるのもまた洋服の醍醐味かもしれない。それを知ったうえで、このブランドのデザイナーはこの部分はこういう解釈にしたんだな..なんてことを考え始めたらもうあなたは洋服屋になったほうがいい笑。
このジャケットを羽織るだけで、いつもと同じパンツ、シャツを着ていても驚くほどヨーロッパの空気感をまとったそれっぽいスタイルに変わる。
このジャケットを見ると「難しそう」と皆が一度は口にするのだが、食わず嫌いなだけで全くそんなことない。実際、店のお客さんもシーズンを重ねるごとに、最初、難しいと思っていたことすら覚えていないのだから。
結局私たちが日常的に来ている洋服はこういう古い洋服からのアップデートを重ねたモノであり、普段どうりのスタイリングに取り入れることで驚くほど良く馴染む。
さらに今回リリースされたこのハリの強いギャバジン生地。着用を重ねるごとに自分のものになっていくのを実感していただけるはずである。
そろそろ聞き飽きたと怒られそうだが、私は時間をこえて魅力を増す洋服が大好きだ。当時はただの作業着だったものが100年以上の時を越えて、こうやって現代のスタイルにフィットしている。
個人的な意見だが、そんな洋服たちを日々眺めていると、結局「流行」なんてものは無いに等しいのかもしれないと考えさせられる。一時的な流行というのは洋服の長い歴史においてはただの微調整程度のことなんじゃないかと。とはいえ、過去から現在において洋服業界に変革をもたらした人物は数多く存在している。既成概念を覆すような大きな変化ももちろんあるが、それは時代が最適解を熱望した結果では無いだろうか。
ここまで多様化しきった現代の洋服において、そんな熱いムーブメントが起こるとは考えずらいというのが個人的見解。もし起こるとするなら、宇宙に移住するための衣類や素材が開発された時じゃないかと勝手に推測している。それなら、私はお客さんたちが一時的な満足のためだけの洋服は販売したくない。流行ではなく時代を見据えたうえで普遍的だけど新しさを与えてくれるモノが私が販売すべき洋服だと考えている。
このジャケットがお客さんの子供や孫に渡ったとき、100年先でもどこかの洋服バカがうんちくを披露しながら嬉しそうに着てくれている。そんな未来があってもいいんじゃないだろうか。