『Painted Blank “Tony”』
今回書くのは、私が立ち上げた『Painted Blank』のファーストリリースアイテムであるTシャツ “Tony” について。
このアイテムを作ってから2年が経った。
私の毎日は大体、こいつを着ることから始まる。
最初に製作したのは150枚。それは半年で完売したがそれ以降、他のアイテムのリリースに右往左往してるうちに素材が全く手に入らない状態になり、再販ができずにいた。
※先日、とある工場さんからの熱烈な提案もあり、以前使用した素材同様に『物語』のある素材にようやく巡り会えた。
ようやく…ようやく再販できそうだ。
使っている素材(コットン)はニューメキシコの管理された農場で作られた『オーガニックスーピマ』と呼ばれる極上かつ希少な素材を和歌山の旧型の吊り編み機を使用して編み立てたもの。
(次回リリースするアイテムはアメリカとインドの管理されたオーガニック綿を使う予定。)
「裏返しても美しくありたい」工場には無理を言って徹底的に縫製も丁寧に仕上げてもらった。
結果、2年経過しても型崩れを起こさず、吸水性も変わらず体に馴染む。
我ながらこれ以上ないカットソーを作ることができた。
「なぜ私がこのアイテムを作ろうとしたのか?」
“コットン” いわゆる綿花栽培の現状についてはひとりでも多くの人に知ってほしい。
現在、綿花は世界で2500万トン以上、70カ国以上で生産されている。
主にインド、中国、アメリカなどだが、特にインドや中国では劣悪な労働環境で働かされ、健康被害、環境被害が大きな問題となっている。
綿花栽培には大量の水と農薬(枯葉剤)が必要になる。水の使用量は小麦やとうもろこしより多く、農作物の中では群を抜いている。虫のつきやすい綿花は、農薬を使わずに栽培するのは非常に難しい。農薬にしろ全世界の使用量の16%ほどが綿花栽培により使用されているそうだ。
大した衣服も着用しないまま毎日農薬を使い続けたらどうなるか?
あなたも容易に想像はつくだろう。
最大の生産国インドの場合、
収入が乏しいインドのコットン農家は農薬を借金を重ねて購入している。
大半は公的な資金ではなく高金利での借金の場合が多く、借金苦など、綿花栽培に関わる人の自殺者は4人に1人。
綿花栽培に従事する人たちの平均寿命は35歳だと言われている。
『借金が膨らむ=収入を増やすために規模を拡大する=体調悪化、労働環境悪化』
現代においても止まることがないこの負のサイクル。
どれだけ時代が変わってきているといっても、現状、オーガニックコットンの使用量が全体の1%未満であることに変わりはない。
さらに、オーガニックコットン100%と言い切れる糸自体もごく僅かである。
普段、私たちが当たり前に着ているコットンはそうやって作られている。
それを知ったうえで、私の仕事は洋服を販売することである。
『どうやっても分母が大きい。行動しても何も変わらない』
「洋服が好き」「着飾ることが好きだから」と
笑っていていいのだろうか。インドの人たちは私がアパレル業界に入ったこの20年で何人亡くなったのだろう。
きっと何もしなければ自分の仕事がどんどん馬鹿らしくなる。それが1番辛い。だから私はこのアイテムを作った。
自分の都合といえばそれまでかもしれない。いや自分の都合でしかないのは十分分かっているが、何もやらないよりは、ずっといいんじゃないだろうか。
下着類というのは、衣類において1番肌に近い部分で私たちを支えてくれている。いわば着こなしの土台である。大切な部分だからこそ、あなたにもこだわりを持って真剣に選んでほしい。
みんな口を揃えて「見えないからなんでもいい」という。
まるっきりトンチンカンな回答だとあえてはっきり申し上げる。ニュースなどで「見えている部分だけとりつくろっている人間」を普段はみんな嫌悪し、嫌っているのでは?
人それぞれの意見があっていいと思うが、あくまで私は、ジャケット、パンツ、アクセサリーより何倍も大切だと考えている。
『ALL THE STORIES MAKE YOU STRONGER』
「たった一枚のTシャツの着心地が、その日を変える原動力になることを知ってほしい。」
少なからず店に来てくれる人たちや仲間達には、
これからも言い続けるだろう。