S&S / BLOG Sep 5, 2022
Text:OKAZAKI MASAHIRO
今回は、先日当店プライベートブランドであるPAINTED BLANKよりリリースされたSTEPHANのご紹介。
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『Painted Blank “Stephan”』

現在3作目までリリースしているオリジナルブランドの2作目となったこのアイテム。

1作目も3作目も大苦戦だったが、多分に漏れずこのシャツも苦戦につぐ苦戦を重ねて完成した。

起想

あなたなら、年間を通して着る洋服の中でどんなものがあれば便利だろうか? 想像してみてほしい。春や秋には軽い羽織り感覚で着れる。夏には日差しから肌を守り快適に着用でき、冬にはアウターの中に着ても軽くなりすぎない重みのあるインナーとして使うことができる。1年を通して使えるものということは、当然だが着用回数は多くなる。

『シャツとジャケットの中間的なモノで、季節を全く気にせず着ることができ、さらに着用回数に応じて成長する洋服』これが、2作目となる “Stephan(ステファン)” のスタート地点。苦悩の始まりである。

デザイン

まずは、アイテムのイメージを作る。自分の頭の中にある理想の形を、サンプル製作が可能な位置にまで具現化する作業。(こんな感じの落書きから始まる)

季節を問わず、インナーを選ばず着用できるシャツにするべく、大きすぎず細すぎないシルエットで設計。 特に「襟」は、着用に伴い適度な開き具合を感じられるよう、何度も細かい調整を重ねた。

最も大事なのが「袖丈」 通常平均より数センチわずかに短くした袖は、あえてビンテージワークジャケットなどに見られる袖口の仕様を採用。

この「シャツなのにジャケットのような袖」は、一見するとチグハグな印象を受ける。ただこのわずかな違いがロールアップ(袖をまくる)で着る際のストレスを軽減し、ボタンを止めた際でもスッキリと収まる。全体像として『シャツ8、ジャケット2』のバランスを目指した。

サイズ

『気に入っているのになぜか着ていない』

その大きな要因は『サイズ』『素材』である。要するに着ている本人も気づかないほんの少しのストレスが、知らないうちに洋服を “タンスの肥やし” に変える。それだけは絶対に避けなければいけない。

シャツにおいて最もストレスとなる、袖丈と着丈そしてアームホールの太さや首の広さなどは徹底的に熟考した。
これは、20数年の経験をもとに、現在着続けているシャツや薄手のジャケットのサイズを書き出し、このアイテムに最適なサイズを細かい部分だと数ミリ単位で書き出す。

この時点で、設計図は完成した。どれだけ設計図(パターン)を完璧に仕上げても実際に縫製する人の腕で着心地は大きく変わってくる。縫製は私が心から信頼している岡山の老舗シャツ工場に依頼した。社長には「シャツ工場の社員さん全ての人が、これ以上ないと言える最適な縫製方法でお願いします。コストはひとまず考えなくて構いません」
と伝えた。

結果、縫製は全箇所に伸びが少なくほつれにくい「本縫い」 を採用。 衿付け・袖付けなどもすべて平台の本縫いミシンで縫製しつつ、着用時の心地良さを追求し、平面的なシャツにならないよう「いせ込み(※)」と呼ばれる方法で立体的に仕上げてもらった。 縫製と刺繍には「綿糸」を使用した。※いせ込み:熟練の技術が必要となる、平面の布に丸みをつけて立体的に仕上げる技法

素材は通年の着用を考え麻(リネン)を使うことは決めていたので、工場にあったものでひとまず作ってもらうことにした。素材で洋服の良し悪しは概ね決まる。

素晴らしい素材を使えば、それなりに良いものはできる。だからこそ、素材の情報が全くない段階で100点をつけられるものでなければ意味がないと勝手に思い込んでいる。つくづく遠回りな性格だと思う。
縫製に使う糸も、着ていくごとに少しづつ生まれる「色落ち」を楽しんでほしいからだ。

素材は通年の着用を考え麻(リネン)を使うことは決めていたので、工場にあったものでひとまず作ってもらうことにした。素材で洋服の良し悪しは概ね決まる。

素晴らしい素材を使えば、それなりに良いものはできる。だからこそ、素材の情報が全くない段階で100点をつけられるものでなければ意味がないと勝手に思い込んでいる。
つくづく遠回りな性格だと思う。

材選び

サンプルの到着までに素材選び。『素材が上質』というのは当たり前だが、「どこで、誰が、どうやって作った素材、生地であるか」それが明確じゃないものは使いたくない。案の定、100種類以上、さまざまな生地を取り寄せたが、しっくりくるものが決まらなかった。

『上質かつ薄くて丈夫。通年着用でき、冬物と混ぜても負けない存在感のある生地』考えれば考えるほど深みにハマる。完全に暗礁に乗り上げた感覚が私を包む。そんな中サンプルが届いた。

自問自答の日々

素材も決められず、届いたサンプルをあけ試着してみる。縫製は完璧。正直それだけだった。形は70点。全くダメではないがよくもない。

「なぜ良くないのか?」

毎回この時間が苦痛で仕方ない。答えがないものに答えを出す作業。1人でサンプルを眺め、試着を繰り返す。10日ぐらい経ったころ、ようやく一筋の光を見出すことができた。ロングシャツのようなデザインで進行していたが、裾のカットを大幅に変更し、よりベーシックなシルエットに変更。仕様変更に伴い、細かな部分全て微調整した。

「これでダメならわからない」正直、そこまで突き詰めた。

助け舟は書道教室

形は修正した。あとは素材。まず、これまで見てきた素材の何がダメなのかを考えた。「それぞれに物語はあるが自分とのリンクを感じられない」そのことに行き着いた。

じゃあどうするか?自分のこと、ブランドのコンセプトを改めて思い返す。

立ち上げたPainted Blankは、主人公である Blank(ブランク) が世界中を旅しながら友人を少しずつ作っていくという物語がバックストーリーとなっている。

トニー(1作目)はイギリス人でブランクとは旧知の仲。不器用なブランクが唯一最初に友達になったのがトニー。

二人で一緒に世界中を旅して、友人を増やしていく(アイテムを増やしていく)物語。仕事ばかりで、海外にも行ったことのない僕が、世界各国の洋服を20年に渡り販売してきた。だから代わりに主人公 Blank に旅してもらおうと思った。

これはブランディングの際「ブランドに人格があれば?」という項目を考えるにあたり僕が想像した物語。ブランドロゴの下にある文章の”全ての物語” というのは、僕が想像したこの Blankの旅物語も含まれている。

このシャツのデザインソースにはヨーロッパのさまざまな洋服のエッセンスが入っているのだから、ヨーロッパ原産の素材が物語には合う。それだけだとありきたりで面白くなかった。何かしら、もうひとつ物語が欲しい。私とヨーロッパをつなぐ何か….

その答えに辿り着いたのはそれから10日ほど経った頃。きっかけは私が昔通っていた書道教室だった。ようやく、形、素材が決まった。セカンドサンプルを発注した。ただ、苦悩はこれで終わりではなかった…

完成した旅路(物語)

シャツの生地の剪定に困っていた。ヨーロッパのリネン(麻)生地と自分をどう繋げるのか。さらに一年を通して着用できる存在感のあるもの。そこで、私が思いついたのが、そのヨーロッパ由来の生地を墨染めする方法である。墨というものには馴染みがある。小学生の頃、親に半ば強制的に書道教室に通わされていたことや、数々の祖父との思い出もある。

「筆と墨」はいわばいつも側にある馴染みのあるものだった。そういえば洋服によく墨汁を垂らして母親に怒られていたな…

そんなことがふと頭をよぎった。今までは生地をそのまま使用することばかり考えていた。加工をすることで生地を台無しにしてしまう恐れがあるからだ。ただ、墨染めは古来から続く染色方法であり、生地に独特の表情と重さをもたらす。

「もうこれしかない」

そう考えた。生地の方向性は決まった。形も決まった(修正した)ここからは、今まで足踏みしていた時間を取り戻すべくピッチをあげる。使用したのは、麻の栽培で有名なフランスノルマンディー地方の最高級リネン。この地方特有の、季節による適度な温度差と降水量、海から来る風は極上のリネンを育てるには最適な気候である。

それを、静岡県浜松市で生地にし(40番手単糸)、愛知県尾州で墨染料にて生地染めを施してもらった。どちらも一流の職人が腕を振るう紡績工場や染色工場が多いエリアである。

麻の歴史と日本の職人魂

リネンは日本でも縄文時代から、衣類をはじめとする多くの日用品に使用されてきた非常に深い歴史を持つ素材。 通気性が良く、吸水性と吸湿性に優れ、他の素材に比べカビや雑菌の繁殖を防ぐ効果がある。ただその反面、シワになりやすいという特性も持ち合わせている。
墨染めを施すことでその “シワ” すら味方にできないかと考えた。そのため、生地の”仕上げ”と”染色方法”を徹底的に吟味した。

『糸から生地にする工程』において、糸に余分なストレスを一切かけず仕上げる日本屈指の職人技は、その作業ゆえ大量生産は不可能。しかしながら、その非効率とも思える手間隙こそが、絶妙のハリ感と光沢感、通年快適に着用できるドライタッチな肌触りを生む。

フランス→静岡→愛知→岡山→徳島(私の店)

海外にも行ったことがない私が「日本人から見た洋服」を表現するには最高の旅路(物語)が完成した。

ラスボス出現

そこから1ヶ月。染め上げられた生地サンプルとシャツのセカンドサンプルが届いた。修正したセカンドサンプルも申し分ない。やはり裾の長さが特有の野暮ったさになっていたようだ。深みと趣ある生地の表情は完璧としか言いようがない。鳥肌がたち、胸の鼓動は早くなり、涙までながれる始末。

つくづく思うが、こんな非効率なやり方で洋服を作っているブランドは、全体の1%にも満たないと思う。決して誇れることではない。かっこ良くもない。これでも最短で動いているつもりなのだ。

唯一、自分を擁護するとするなら、私はファッションをやりたいのではない。私のブランドの製品は自分の洋服人生を賭けた旅物語の産物であり、「終活」なのだ。自らの人生において、最後の日に着ていたいと心から思えるものを作っている。心待ちにしてくれている人には申し訳ないが、現状、時間をかけて生み出すしかできない。ここまで書くと、これからリリースまでスムーズだっただろうと思うだろうが、涙を流して感動した直後、最大の壁が目の前に現れる事になる。

ラスボス出現 (常識を壊せ)

生地感、肌触り、シルエットは120点。いよいよ量産するだけだと思っていた…「よかった」と胸を撫で下ろしたその手(私の手)がほんの少し黒く染まっていた。墨染めの特徴として色が均一に染まらないのは今回のアイテムにとって大いにプラスに働いている。

が、色落ちが想像以上だった。

工場に問い合わせたところ、「素材としては染めやすいので、これでもかなりよく染まっています。しばらく着ていたら色移りもなくなります。心配ないのでは?」墨染めの色落ちは事前に知っていた。草木染めなども然り、ナチュラルな染色方法なので色落ちは当たり前なのだ。「きっとこれが限界なのだろう」常識的に考えても充分すぎるほど良く染まっている。ただ、何度も生地に洗いをかけ、色止めを施せば、なんとか最小限に収まるんじゃないかと思っていた。

その最小限の認識が私と職人の間でほんの少しの差があったということ。最高の生地なのは間違いないが、このままでは「白のTシャツをなかに着れない」私の洋服は、目に見えない小さなストレスを排除することを前提にしている。手にすることで、何かしらの制約があるものは作りたくない。

また振り出しに戻ってしまった…心がきしむ音がした。

そんな時、サンプルを製作した縫製工場の社長から連絡が入った。岡山の社長が私の落胆を察して、「愛知から染め上がった生地をこちらで色止めしてみます」そう言ってくれた。当然だが、愛知の職人さんも生地や染めの表情に影響が出ない範囲で、ナチュラルな色止め処理しかできないうえで可能な限り最善の処理を施してくれている。改善される可能性は低かったが、今は信じるしかない。それから2〜3週間後、生地ではなく完成品のシャツが一枚届いた。

「生地を洗って色止めし、製品にする前にさらに時間差で色止めしました。シャツを作る時間もこちらで計算したかったので製品を送ります。どうでしょう?」シャツが送られてきたのは正直驚いたが、試しに触ってみる。質感は以前と全く変わらない。触って、強く擦っても手に墨はつかなかった…色々と試行錯誤してくれたことがわかる。

初めて完成品に近いモノを試着した。そこには、頭の中で繰り返し思い描いていた理想の斜め上をいくモノが。心からお礼を伝え、量産に入ってもらった。「墨染めは色が移る」そんな当たり前の常識を壊してくれた職人の技術と情熱には頭が上がらない。今作も苦悩とトラブルばかりだったが、ようやく最終ゴールが見えてきた。

洋服の目

ボタンは洋服においての目の役割をはたす。使用したのは水牛釦の14mm。通常のシャツボタンが13mmだが、ジャケットの要素を入れたこのアイテムは通常より1mm大きいモノを採用した。釦(ボタン)の歴史において、木の実や貝に次いで長い歴史を持つ水牛釦は、現在では石油資源節約とCO2削減になることから「プラスチックを使用しないボタン」として改めて注目されている。 

何よりすべて微妙に表情が異なり、同じものはひとつとして存在しない。 小さいながらもシャツ全体の質感をさらに高める役割を持つ。今回のシャツには欠かせないパーツである。

納品・リリース

結果、このシャツは50枚のリリースだったが、驚くべきスピードで完売した。そんなこともあり、近日生地を変えて再販する。
新しい生地にもまた私との強い物語のある生地を見つけることができた。今から楽しみで仕方がない。

最後に

私の作る洋服には、取扱説明書をつけている。この説明書を私は旅のマップとして考えている。いわば旅のしおりのようなもの。10ページほどのこの冊子には、作るきっかけや生地や縫製、染色、クリーニング方法などを書いてある。手にした人が好きなように着用するのが洋服だが『自由』にも種類があると私は思っている。手にする全ての人が基本的なことを頭に入れたうえで初めて自由な洋服だと言えるのではないだろうか?

黒染めは色落ちすることが当たり前だと思っているのは、洋服が大好きな人たちだけ。伝えておかねければ危険なこともある。洋服に詰まっている「物語」の一端、大切なことだけでも伝えておくこと。それは旅の準備に等しい。私の商材にパッケージされた最低限の義務だと思っている。

完成したこのシャツに私は ” Stephan(ステファン) ” と名付けた。ドイツに住む架空の少年の名前である。一作目は ” Tony ” 2作目は ” Stephan” 3作目は “Jiro”ブランクがトニーと共にイギリスを出発したこの旅物語。ドイツでステファンと出会い、日本で次郎と出会い、現在、4人はアマゾンにいる笑。先日リリースしたステファンの物語は別として、アマゾンでの旅物語を10月ごろ、まだ目的の場所に辿り着けるかどうか分からない。最大の難所はクリアしたがまだまだ険しく大変な旅の途中である。

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この記事を書いたひと
岡崎 昌弘OKAZAKI MASAHIRO | sas_okazaki
1981年生まれ SLOW&STEADY 代表。18歳の時より地元の古着屋へ勤務。その後同じく県内のセレクトショップ勤務を経て2013年「SLOW&STEADY」をオープンさせる。
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