今回のジャケットは先日入荷したFRANK LEDERの秋冬の新作で、モールスキンジャケットと呼ばれる、1900年初頭のフランスで労働者が着る作業着として生まれたモールスキンという素材を使ったジャケットなのだが、これまた洋服好きにはたまらないストーリーの詰まった一品である。
過去のnote記事にモールスキンジャケットや素材については詳しく書いている。
【ブラックホールへようこそ!『黒』 の魅力とは】
https://note.com/slwanstdy/n/n731f70b46d29
なにせ頑丈で温かく、着用に伴う経年変化が魅力的な素材なのだが、今回使用しているこの素材はさらに面白い。ジャケットの首元に専用タグがついているので合わせて説明する。
This Garment is made from burned molton
Fabric used in an industrial Decatising Machine
要するに、工業用の機械の下敷きなどに使われていたこの素材をデザイナーがドイツ国内で発見し、機械の熱で焦げたり変色し独自の表情を持ったこの素材を使って作ったのが本アイテムである。
シーム・ポケットの入り口部分は、焦げて黒くなった部分をあえて使っている。加えて、身頃の左右で色が違っているものがあったり、なかったり。素材の特性上、個体差が大きく存在するのが最大の特徴である。
機械の熱のせいだろうか?かなり光沢感が強くあり、モールスキンといえども、ハリとコシの強い素材である。
ヌードカラー(肌色)のジャケットはコーディネートの色合わせが難しく、普段であればオーダーしないのだが、独自の光沢とこのランダムな色ムラが逆に良いコントラストを洋服に与えており、着こなしの難易度をグッと下げてくれている。100年以上前のビンテージボタンとの相性も素晴らしい。
悩んだ末、各サイズを数着ずつ並べることに決めたのだが、やはり数を入れすぎたかもしれないとずっと怖かった。先日、入荷後のお客さんたちの反応を見て驚いた。皆このジャケットを真っ先に試着しているのだ。
コロナ時期も長かったせいで、いつの間にか私は大切なことを忘れそうになっていたのかもしれないと反省させられた。洋服とは個性を表現するもの。意図して作られたモノではない個性の強い素材をここまで上品に洋服に昇華したこのアイテム。「ヌードカラーは難しい」とか、そんなことに囚われず迷うことなく、堂々と皆に紹介すべきだった。今までずっとそうやってきたのだから。
逃げずに店として自分の信じる表現を貫くことが一番大切だと改めて痛感した。そう。またひとつ私はお客さんたちに教えられた。
「難しいからやらない」
きっと、そんな店主など見たくないと皆が鼓舞してくれたのだろう。
いつも通り、怖さや不安など笑い飛ばしていこうと思う。