先シーズンから取り扱いをスタートしたIsabella Stefanelli(イザベラステファネッリ)の春夏アイテムが入荷しました。糸の選定から織構造の構築にまで至る生地開発、パターンメイキングから縫製、仕上げに至る全行程を全てデザイナー自身が行なうことで造り上げられるその洋服には、魂が宿っている…まるで生きているんじゃないかと思わせるほどに強い力を放っています。
“simplex mundittis”
10回目の今回のコレクションテーマは “simplex mundittis” 要するに「シンプルシェイプ」おそらくこれはイザベラ自身がブランドをスタートした当初からのテーマでもあるように思うのですが、特に去年からコロナウィルスという未曾有のウィルスにより世界中の人たちが苦しめられている中で、本当の意味での「心に響くモノとは何か」を自問自答し生み出されています。
今期特徴的なのは、手機織機をアトリエに持ち込み彼女の手で織り上げられた生地の数々。この生地は、デザイナー自身が大好きな、18世紀に活躍したフランス人音楽家「エリックサティー」のジムノペディNO.1という曲の譜面をもとに織り上げられており、音の強弱を生地目幅で表現しています。そんなの僕らが見ても絶対に分かりませんが…
クラシック音楽の世界からは「異端児」とされる一方で「現代音楽のルーツ」と称されるエリックサティー。今までの定説やルールを排除し、どこか物悲しく派手で余計な音の一切を削ぎ落としたような音楽は、Isabella Stefanelliの洋服と非常に相通じるように感じるのは僕だけでしょうか。
生地に至る物語もさることながら、Isabella Stefanelli代表モデルであるバージニアウルフを始め、フィンセント・ファン・ゴッホ、イザムバード・キングダム・ブルネルなど、リリースされるアイテムには、デザイナーに影響を与えた実在の人物の名前がついており、商品一つ一つにその人物についての説明が記されたタグが付属しています。
影響を受けた好きな人物を思い描くことで生み出されたシンプルで独創的なアイテムたち。そのシルエットの裏側には父から受け継ぎ、さらに構築させてきたテーラーメイドの技術がふんだんに盛り込まれています。
そういった洋服を作るうえでの圧倒的技術に加え、哲学ともいえる紡がれた数々の物語。それが融合することでIsabella Stefanelliの洋服は完成しています。
良いものとは
「良いものとは何か?」それは物を作る人、販売する僕らすべての人たちが考えることです。ただ、究極的に考え抜かれた先に生み出されたものというのは、僕らが考えてもわからない “余白” の部分が必ず存在しています。
答えは作り手しか持っておらず、それを僕らに委ねてくる。だからこそ強く惹かれるんじゃないかと思うんです。そんな洋服って、この世の中にどれだけ存在するんでしょう。一つ言えることは、ここまで真剣に洋服や自分自身と向き合い、一人でその孤独と戦っているデザイナーさんはそういないと思います。
感覚的なご説明ばかりで申し訳ありませんが、まずは自分の五感すべてフル動員して感じてみてください。意味はわからずとも心は震えるはずです。