※これは店長岡崎がnoteというSNSで連載している『僕の洋服物語』というマガジンの記事からの抜粋です。
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中学3年生の頃に同級生の影響で洋服の魅力に取り憑かれ、今に至る(41歳)までに体験した『洋服』をはじめとした『モノ』にまつわるアレコレ。
自分の価値観を形成するうえでターニングポイントとなった『私と”モノ” との記憶』いわばモノにまつわる物語を書き綴る日記。読んだあなたが、少しでも洋服を好きになるきっかけ、自分の使う道具を愛らしく感じてもらえるようになれば嬉しい。
「僕の洋服物語より」
【PORTER CLASSIC Corduroy Pants】
今日紹介するのは、私がこよなく愛する冬の定番ズボンである。
ポータークラシックというブランドが形を変えながら定番的にリリースしているコーデュロイ生地のパンツ。
先日、今年の入荷分が店に届いた。
『ポーター/PORTER』という鞄ブランドは知っている方も多いだろう。そのポーター(吉田カバン)を作った一族が生み出す商品はタレントのビートたけしさんや、芸術家の村上隆さんなど各業界から絶大な支持を得ている。
:Poter Classic (ポータークラシック)
「メイドインジャパンに拘った世界基準のスタンダード』をコンセプトに伝統からアンチテーゼ芸術、職人技術を織り交ぜながら子供、孫の代まで愛されるものづくりを追求
コーデュロイってなに?
この縦に太い畝(うね)の入ったコーデュロイ(コールテン)生地をあなたも一度は見たことがあるだろう。
コットン素材のもので、一般的に “冬の生地” というイメージだが、この畝が太いものは冬用、細い畝のものはサマーコーデュロイと呼ばれ通年使うことができる。今回紹介するのは太畝(ふとうね)タイプで冬には抜群の保温性を誇る。
王様のポテンシャル
コーデュロイの語源をご存知だろうか?
諸説あるが、現在最も有力とされているのが『cord + deroy(西イングランド発祥の毛織物)』という説。
今回紹介するこのアイテムに使われている素材は1858年にイギリス西北部ヨークシャー州にて創業した老舗『ブリスベン・モス社』のものを使用している。コーデュロイ発祥の地とも言える場所で150年。創業当時からの変わらぬ製法で織られた重厚感あるコーデュロイは、その長い歴史と高い品質から「コーデュロイの王様」と呼ばれている。
ドイツの「キンダーマン社」のコーデュロイも非常に有名であるが、どちらが良いと断言できる大差はなくどちらも素晴らしい素材である。とにかく頑丈で暖かく、また時間をかけて履きこむほどに実に柔らかく体に馴染む。そんな至極の生地を、日本の職人の手によって染色されている。
ブラウン(茶色)、ネイビー(紺色)、ブラック(黒色)基本はこの3色がリリースされているが、中でも”ゴールデンブラウン”と呼ばれるこの茶色は、数年履き込むと黄金色に経年変化する。
私はこのブラウンをメインに6年以上履いているが、毎年お客さんたちに「それが欲しい」と言われ続けている。
そう。新品の状態から驚くべき成長が確約されているパンツなのだ。
伝統と歴史
こちらは1931〜1934年に出版され当時の労働者の様子を職業別に写した『LA FRANCE TRAVAILLE』洋服屋のバイブルとも言えるこの本だが、全15巻の内、私は男性をメインに撮影している6冊を繰り返し見ている。
頑丈で暖かいコーデュロイは少し前に紹介したモールスキンと並んで、当時の労働者の中でも冬の定番。どちらも素材の違いはあれどシルエットはよく似ている。
当時の労働者達の着こなしを見ていると、現代においても十分通用するスタイルだということにいつも驚かされる。100年近く前のビンテージコーデュロイパンツは過去何度も店で販売しているが、現代のスタイルに遜色なく溶け込む。よくよく考えれば凄まじいことである。
100年前から形が変わらず今の需要にも対応できる。
そんなものを探す方が難しい。
持論だが、洋服の歴史においての大きな進化は1920年代から止まっている。時代に合わせたマイナーチェンジや、素材選び、シルエットはあれど、この時代を紐解くことで洋服の基本的な着こなしやルーツなどが大まかに見えてくる。
いわば「洋服が花開いた時代」である。
洋服が完成された時代の空気を感じながら、伝統ある王様生地と日本の職人魂を感じることができるこのパンツ。
シルエット、マテリアル、ストーリー、合わせて考えてもやはり「王様」である。
老眼鏡を片手に記事を書いている未来を信じる
『ブリスベン・モス』『キンダーマン』
王様と呼ばれるほど有名な生地メーカーはなんとか続いているが、昨今、国内外の伝統と技術を持った工場が驚くほど閉鎖に追い込まれている。
安価な洋服を買うことが当たり前となり需要がなくなっている苦しいなかで、コロナがさらに深刻なダメージを与えた。
実際、このパンツも去年から『ブリスベン・モス』の生地を使わず、オリジナルコーデュロイとして自社制作の生地に切り替えている。理由は定かではないが、生地の価格高騰なども原因のひとつだろう。
「良いものは無くなっていく運命なのか?」とたまに頭をよぎることがある。未来はきっと今より深刻な状況になっていることはほぼ間違いないだろう…。
そんななかで私ができることは『良いモノとは何か?』それを考え続け、
1人でも多くの人に後世に残すべき良品を伝え続けること。
10年先もこの『僕の洋服物語』を老眼鏡片手に書いていられる未来のために。