今回は私が現在に至るまで何枚買ったかわからない不動の定番アイテムを紹介する。取り扱いしているPHIGVELというブランドから通年リリースされ続けている「サーマル」である。
そもそもサーマルとは
「サーマル」とは「熱の」という意味。また「熱」という意味を広く解釈して熱や温度に関するものの総称的な用語としても使われている。歴史としては細かい部分は定かではないが1900年代初頭にすでにコットンやウール素材のサーマルアイテムが存在している。使用される生地はおおまかに2種類。格子柄(ワッフル)のような素材と蜂の巣(ハニカム)のようなものがあり、基本的にはコットン素材のものが多い。
凹凸のある生地は、着用したときに肌に接する部分を少なくする。そのことにより肌に触れていない部分に温かい空気の層ができることで、保温性を向上させる。生地の特性として伸縮性もあり繰り返し洗える。
今はファッションアイテムとして様々なアイテムがサーマル素材でリリースされているが、第二次大戦期はもとより現代に至るまで各国の軍隊でこのサーマルがインナーとして採用され続けていることからも、その利便性の高さは折り込み済みといえる。
各種様々なものが無数にリリースされているが、このPHIGVELのサーマルは一枚で着用しても透けない厚さで、かといってインナーにしてもゴワつかず、適度なコシはあるものの柔らかな素材感..申し分ない高得点である。
シャツの中にはヘンリー(ボタンつき)ニットなどのインナーにはクルー(丸首)を着ている。2種類、色違いを合わせて私の洋服部屋に10枚は最低でも畳まれている。まさに何枚あってもいいと思える定番アイテム。冬はサーマルなしでは洋服が着れないほどに使い続けておりこのうえなく優秀である。
とはいえ、下着はやはり消耗品。買い足していくとどんどん増えるので、伸びてダルダルになってきたらパジャマや部屋着にしている。
それで終わりではない。部屋着を卒業しても優秀なサーマル君には転職先が用意されている。
凹凸があり伸縮性、吸水性にすぐれ、肌着としての柔らかさを持つこのサーマル素材は、シューズメンテナンスの際に靴を磨くクロスとしても非常に優秀なのである。適度な凹凸は余分なクリームを落とし、ツヤを出すことにも驚くほどの才能を発揮する。
私は新しいものを買い足したら、部屋着歴の一番古いサーマル君を、シューズクロスとして任命している。お客さんたちのシューズのメンテナンスを頼まれることが多い私の店では、シューズメンテナンスにおいてもなくてはならない定番アイテムとして活躍しているのだ。ネットで調べてもサーマル素材がシューズメンテナンスに適した素材とは書かれていないが、私がメンテナンスをしているのを見て、店のお客さんたちも古いサーマルを使い始めた。
クローゼットにコットン製の着ていないサーマルがある人はぜひ試して欲しい。サーマル以外にも箪笥の肥やしにしているような洋服、あなたも数枚はあるのではないだろうか?素材ラベルを見て、化学繊維の入っていないものであれば使いどころは無数にある。着ないからと捨てるまえに少しだけ考えてみて欲しい。
良い洋服というのは素材になっても価値を放つ。洋服としてのカタチではなく、他の破れた洋服の当て布にだって、ランチョンマットにだって、縫い合わせてテーブルクロスにだってできる。
もし不要な洋服がたくさんあるなら、私の店に送って欲しい。なにかしら使えるアイテムに変えて送り返して差し上げる。洋服が現役を引退した後の老後生活。そんなこともほんの少しだけ頭に入れて永く付き合っていける洋服(素材)を選ぶ。それもまたこれからの未来に向けて道具選びの基準となるはずである。