『Santa Maria Novella ポプリ』 店を彩る「香り」について
カラーコーディネーターなどと同じく、店内の香りをコーディネートする仕事があることはあまり知られていないが、店にお越しいただいた際、「あの店の匂い」と記憶していただくことは、店にとって大切なブランディングのひとつ。個人的にも「香り」は家具や什器等と同じくらいに大事なものだと思っている。
今回は、私の家でも店でも10年以上、使い続けている香り「Santa Maria Novella -ポプリ-」を紹介する。
友人の新築や引っ越しの祝いにプレゼントするいわば『私の定番アイテム』である。
歴史
イタリアの古都、フィレンツェで、世界最古の薬局として800年もの歴史を誇るサンタ・マリア・ノヴェッラで生まれたこの香りは、「香りの芸術」と称され、伝統のレシピで作り続けられる「癒しの芸術品」とも呼ばれている。ナポレオンや王侯貴族たちを通過して現代でも多くの作家や著名人に愛されている。
その中に「メディチ家」という一族がいる。ルネサンス期のイタリア・フィレンツェにおいて絶大な権力を持っており、銀行家、政治家として台頭、フィレンツェの実質的な支配者(僭主)として君臨し、後にトスカーナ大公国の君主となった一族だが、このメディチ家が全面的に支援し、13世紀より小さな修道院で行っていた癒しの治療を16世紀に入り薬局として正式にスタートさせたのが現代に至る。
現代の医療を司る『メディカル』などの語源となったこのメディチ家の歴史を調べると、非常に面白いエピソードがたくさんあるが今回は省略する。とりわけ、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロなど古くから芸術家を支援していた一家としても有名である。
伝統の香り
店の至る所に配置しているこのポプリ。300年以上前からサンタ・マリア・ノヴェッラに受け継がれているレシピに基づき、今もかたくなに当時から変わらない方法で製造されている。フィレンツェの丘に生育する植物の小果実、葉、花びらをミックスしたポプリは、サンタ・マリア・ノヴェッラが誇る伝統の香りといえる。
よく「お香ですか?」と尋ねられるがお香ではない。お香は燃焼成分が少なからず入っているため私は長時間いると疲れる。加えて洋服店なので煙は洋服にあまり良いとは言えず、火の元などを考えると使いたくない。
そんなことを考えてたどり着いたのがこのポプリ。店と同じ香りにしないと洋服の匂いが混ざってしまう気がして、家でもずっと使い続けている。香りで体を癒すという本来の趣旨どうり鼻につかない自然な香りはリラックス効果を与えてくれる。初めて部屋に使うなら、200グラム入りのものを買って、部屋の数カ所に分けて配置し、そこから半年に一度くらい100グラムづつ買い足して追加していくのがおすすめ。匂いが薄くなったからといって捨てずに上から新しいものを足せば、古いポプリも香りが復活する。
香りは名刺
ライセンスの関係で店では販売できないが、すでに店に来る多くのお客さんたちが家でも使っている笑。店に入った時の香りは、いわば店を紹介する名刺がわりとなる。私はこの香りに慣れすぎてわからないが、通信販売で店から県外に商品を送ると「この香りはどこのですか?」とよく返信がある。新規のお客さんも洋服を見る前に「いい香り」だと匂いをまず褒めてくれる。
この空気に包まれた洋服を毎日眺めていると、洋服も気持ちよさそうに笑っている気がする。小さな子供からお年寄りまで誰も不快にならないこのポプリは、私にとってなくてはならない大切な道具である。
良い店とは?
“良い店” というのは「香り」「置いている什器」「ハンガーや備品」その全てに物語がある。
店の開業前、東京出張の際にふらっと立ち寄ったバーがある。私の2回りぐらい年上の店主が今も元気に営んでいる。そこは、お酒を出す際には “チェイサー(水)” を必ず一緒に出してくれるのだが、お酒と同じ国の水を出してくれる。その細やかなこだわりに感動したが、いつだったか試しに「なぜですか?」と聞いたことがある。店主は「お酒と同じ国の水を出さない理由がわからない」と笑っていた。
当たり前だと思っているその行為が、一般的に当たり前ではないことぐらい本人も十分知っている。人から見たら「こだわり強い」と思われることかもしれない。私にとっても「香り」は洋服を取り巻く空気であり、その空気にも物語は当たり前に必要。そう考えている。
そんな、『当たり前ではない当たり前を積み上げた結果が良い店を作っていく』。あの老舗バーの店主と比べるのはおこがましいが、
きっと同じようなことを考え続けているのではないだろうか。