『CARRES × SLOW&STEADY “Like a Kid Hat”』
1921年公開のサイレント映画『The Kid』チャップリン映画の中でも何度も繰り返し見ている大好きな作品。
捨てられた赤ん坊を引きとった放浪者。
5歳に成長したキッドと放浪者の物語である。
「劇中に出てくる男の子がそのまま大人になったとき、かぶってそうな帽子」
※男の子(ジャッキークーガン)
それが長年、私が思い描く理想の帽子だった。
古き良き労働者の土臭い雰囲気と、どことなく無邪気な少年っぽさは残るが、大人の佇まいもかねそなえた『成長した彼』が仮に帽子をかぶっていたなら..
そんな風に想像を膨らませた先に行き着いた私が脳内で作り上げた架空の帽子はまさに相棒と呼べる素晴らしいものになるはず。
10年前。ちょうど店を作ったあたりで、数件の帽子メーカーにサンプルを依頼しようと動いたが、どのメーカーにも私の細かいオーダーが理解されず、結果断念した。
それから随分経ったある日、理想の帽子は突然目の前にやってくることになる。
今日はそんな、私の愛してやまない帽子の物語。
CARRESの二人との出会い
「フランクリーダーの洋服が好きなんです」
徳島ではあまり見かけない、都会的な空気感を漂わせ、2人が店に初めて来てくれたのは開店当初の10年ほど前。
その後も数回、店に買い物に来てくれた。
会話の中で、洋服を作っていることは聞いていたが、あまり深い話を聞くタイミングもないまま店にも来なくなった。
フランクリーダーが来徳してくれた店内イベントに久しぶりに店に来てくれた2人と、改めてゆっくり話をしたが、かなり忙しくしていたみたいだった。
海外生活も長く、英語が堪能な2人。
私がフランクに伝えて欲しいことなどを代わりに話てくれたり、話している内容も教えてもらう。
いわば通訳役を務めていただき、フランクも交えて一緒に遅くまで洋服話で盛り上がった。
その話のなかで2人がどんな洋服を作っているのかという話を聞いた。
『CARRES (カレ)』というブランドをやっていること。
東京での活動に疲れ、女性(小野寺さん)の地元である徳島に2人で帰ってきたこと。
長い海外生活、東京にいた頃に培った顧客さんに要望に合わせてハンドメイドで洋服を届けていること。
などなど。聞けば聞くほど
2人に興味が湧いてきた。
ただ、その時はイベントの打ち上げの最中。
もちろんそれどころではない。
「2人とは仕切り直そう」そう思いながら帰宅した。
CARRES
:阿部 俊太 Shunta Abe
04年、アメリカのFashion Institute of Technology, New York(ニューヨーク州立ファッション工科大学)にて紳士服全般のデザイン・パターン・裁断・縫製及び、服飾の基礎を学び、メンズウェア科・準学士号取得。在学中及び在学後の2年間、複数のメンズアパレルブランドにてアシスタントとして働き、パターンメイキングを中心に経験を積む。
05年から2年間、Royal Academy of Fine Arts Antwerp, Belgium(ベルギー王立アントワープ美術大学)ファッションデザイン科にて発展的なデザインの構築、歴史衣装の再現等、より幅広い視野で洋服とデザインについて学ぶ。
2012年、ブランドCarresを設立。手仕事にこだわり、テーラーの縫製技術を応用し、紳士服だけでなく婦人服・帽子・バッグ等を一点一点制作。テーラーとしても国内外から個人的にスーツ等のアイテムのオーダーを受けている。
:小野寺 宏実 Hiromi Onodera
04年、武蔵野美術大学/空間演出デザイン学科・ファッション専攻を卒業。大学在学中の約3年間、靴のアトリエにて製作に従事、主にパターンナーとして働く。その後、単身渡英。05年からベルギーに移り、Royal Academy of Fine Arts Antwerp, Belgium にて更にファッションを学ぶ。
07年、ブリュッセルで開催された ” 6+ Antwerp Fashion展 ” に作品が選出され出品。帰国後、ダンス・舞台などの衣装制作の仕事で経験を積む。2012年からは自身のブランドCarresを持つ傍ら、国内外のダンサー・アーティストに自らデザインした衣装を制作している。
奇跡の食事会
興味が湧いたままでは収まらない。
どうしても話を聞きたくなり、二人を食事に誘った。良い返事をくれたので、何かしらの勉強になるかと店のスタッフも連れて行くことにした。
互いのことを話していく中で、「帰国してから銀座の『高橋洋服店』で働いていたんです」
阿部さんからその話を聞いたとき、私は飲んでいたビールを吹き出してしまいそうだった。
『高橋洋服店』といえば、
一流の職人が作る国内最高級の老舗オーダーメイドスーツ専門店である。
店主の高橋純さんが書いた著書、
「黒」は日本の常識、世界の非常識 この本は私にとって、洋服を学ぶうえで大切な一冊として大事にしていた。
以前、時間との兼ね合いで諦めたが、
オーダースーツのことを学びたいと『高橋洋服店』が行っているスクールにメールを送ったこともある。
私が尊敬してやまない名店。
『尊敬している店であり、大切にしている本を書き、メールまで送った高橋純さんのもとで4年間も働いた経験を持つ人が目の前にいる』
本当に驚きました。
阿部さんも私と同じリアクションを返し、
「まさかこっち(徳島)で高橋の話をできるとは思いませんでした」
そう言って驚きながら笑っていた。
そんな奇跡的なことも重なり、その飲み会は大いに盛り上がる。
「自分は帽子を作るのが好き」だと阿部さんが言うので、酔った勢いで、長年思い続けている理想の帽子の話をした。作ろうとして断念したことも。
2人は、過去に相談したメーカーとは180度反応が違っていた。
伝わらないと思っていた数々の細かなことを、スポンジにたらした水滴のごとく、即座に吸収しているのが理解できた。
阿部さんは、
「確かに、これだけ細かなこだわりを伝えるのは、通常のメーカーでは難しいですね。でも、確かにおっしゃっている帽子は素晴らしい!長年お客さんたちを見てきた人からしか出ない発想です。良い話を聞きました。ありがとうございます。」
お互い酔っていたことは差し引いても、阿部さんの言葉に嘘がないのはわかった。海外の名門と言われる学校を卒業し、憧れの店でキャリアを積み、ブランドまで立ち上げている人に褒めてもらえた。
それだけでいい。
私の帽子物語は未完成のまま完結。
そう思っていた。
LIKE A KID HAT
食事会から約10日後。
帽子のことなど、すっかり忘れていた僕の元に、
そいつは突然やってきた。
「試しに作ってみたんですがどうでしょう?」
と2人から渡されたものは、飲み会での会話を余すことなく全て汲みとってくれたような素晴らしいものだった。
大抵、頭の中のビジョンは美化される傾向にあるが、そいつは脳内でイメージした理想の形の斜め上をいくモノだった。
さらに、帽子のコンセプトを吸い上げ、
「Like a Kid Hat」と素敵な名前までつけてくれた。
『まるで子供のように』直訳するとそういう意味だが、この帽子の由来は映画である。
『まるでKid(映画)のように』そういう意味も込めて、2人がつけてくれた。
(帽子製作に取り掛かる前に、映画も繰り返し見てくれたそうだ)
「良い話を聞いたお礼です。気に入ってくれるならぜひ被ってください」
「それは申し訳ないから代金は支払います。ただ、自分だけこんな良いものを使うわけにはいかないので、うちの店だけの帽子として誰でもオーダーできるようにしませんか?」
2人も快く承諾してくれた。
それから数年。
帽子として考えると、決して安くはない価格だが、今では店のお客さん、県外の方達を含めて、100個近くこの帽子は販売され、
嬉しいことに取扱ブランドのデザイナーさんまでオーダー頂いた。
さらに嬉しいのは、帽子が苦手だった人の満足度が非常に高い点。この帽子はサイズを自由に設定できる。自分のスタイルに合わせてミリ単位で微調整出来ることで、『自分だけの帽子』になる。
店頭でもホームページからでも、細かな相談にのり、サイズや生地の提案ができるのも帽子が苦手な人の安心感につながっているのかもしれない。
最後に
かつてのイギリスでは紳士を見分ける方法として
『もしその人物が家の中に入ってきて帽子を脱ぐようなら紳士。帽子を脱がないのなら紳士のふりをしている男。そして、帽子をかぶっていない人物は紳士のふりをすることさえあきらめている男』
といわれていた。それほどまでに、男性の身だしなみを司る重要なアイテムとして大切にされてきた帽子(ハット)
季節に合わせて『自分の帽子をオーダーする』
その行為に、なにかしらの高揚感を感じるのは私だけだろうか。
30年前までは当たり前のように行っていた “洋服を仕立てる” という行為。
馴染みの店主と他愛のない会話をしながら素材を決め、採寸し、洋服を仕立てる。
既製品がまだ主流になる前の日本でも、そうやって1人1人の要望に合わせて作られるのが当たり前の日常だった。
いわば日本人が洋服に触れた原点。既製品を販売する私がこんなことを書くのもおかしいが、それは皆が忘れつつある大切な歴史であり、未来に残すべき技術、文化である。
丁寧に時間をかけて、ひとつずつ作られていた古き良き日本の原風景が脳裏に浮かぶようなモノ
それこそ『人の心を動かす強い道具』ではないだろうか。
この帽子は単に長年欲しかった私の理想の形というだけではなく、そういった懐かしい景色までも再現してくれた。
春夏秋冬、私はこの帽子を被っている。こんな事を販売員が口にすることではないが、この先、帽子はこれしか被らないだろう。
周りの仲間たちは十分すぎるほど理解してくれているが、“理想” が目の前にあるうえで、他のものをおすすめできるほど、私は商売上手ではない。
来年以降、2人と一緒に店のお客さんに向けて、オリジナルのスーツをリリースする予定。
そう。あの “彼” が大人になったとき、
着てそうなスーツを作るつもりだ。
帽子と合わせて、
普段から着用できるものにしたい。
今から楽しみだ。
商品について過去のスタッフブログ
あなたに寄り添う帽子を。CARRES×SLOW&STEADYのオーダーメイドアイテム “LIKE A KID HAT” のご紹介。
以下、noteより。
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僕の洋服物語|MASAHIRO OKAZAKI / SLOW&STEADY|note洋服屋を初めて20年以上が経ち、僕と洋服との「物語」は無数にあります。 そんな洋服、モノにまつわるアレコレを日記形式で紹介note.com
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夢の道しるべ 〜20年の全てを教えます!〜|MASAHIRO OKAZAKI / SLOW&STEADY|note“これから店を始めたい” ”店の売り上げを上げたい” “本気でアパレルをやってみたい” “洋服について勉強したい” “夢をnote.com
【書いてる本人はこんな男です】
https://note.com/embed/notes/na22bd7ac1224
【外部リンク】
:ショップ・オリジナルブランド
「SLOW&STEADY」
http://slow-and-steady.com/
「Painted Blank」
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:instagram
https://www.instagram.com/at_slowandsteady/
:twitter
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