私がブランドを立ち上げて、初めて作ったのはシンプルな白ティーだった。土台が大切だと考えたからである。何事においても、それはもちろん洋服においても。
そして先日、ようやく新色のブラックが生地を変えて再リリースされた。今回はそのことについてのエピソードをご紹介する。
〜 生地変更について 〜
某有名デザイナーが購入してくれ「嫉妬した」とまで言っていただいたTシャツ。2年以上待ち続けている人が多数いる中で、再販ができなかったことは私の力不足である。
生地の価格高騰や、生産ロットの関係で作りたいが作れなかった。正直、半ば諦めていた。
一筋の光が差し込んだのは今年の3月頃。やはり光をくれるのはご近所さんなのかもしれない。
毎週のように遊びにくる常連さんのイケピーだった。彼は根っからの洋服好き。
「自分が興味がある仕事につきたい」
そんな想いから、昨年公務員をやめて、徳島のお隣さんである香川県の縫製工場で働き始めた。毎週のように仕事のことを楽しそうに話す彼に私も元気をもらっている。逆に私のお店のことも同じ顔をして会社の上司に伝えていたのだろう。
ある日、イケピーが勤める会社の上司がやってきた。最初はお客さんだと思って、色々と洋服の説明をしていたのだが、どう考えても素人ではない知識量に私の方から、
「業界の方ですか?」と聞き、そこで初めて自己紹介をしてくれた。「〇〇(イケピー)が毎日のように岡崎さんの話をするからどんな人でどんなお店か気になってきました…確かに。通いたくなる理由がわかりました。」
そう言ってくれた。本来なら嬉しいお言葉なのだが、いつもは、すぐに業界人だとわかるはずなのに、30分以上話して分からなかった自分のアンテナが錆びたのではないかと軽く凹んでいたのであまり覚えていない笑。
その中で再販できずにいるTシャツの話になった。しばらくして、「岡崎さんが満足できるような物語のある素材を確保できたら、ウチが作らせてもらうことは可能ですか?」そう言ってくれた。心配していたロットも以前の工場の半分以下で生産可能だという。断る理由などなかった。
「そうなれば最高です」と答えた。前回の生地を越える素材であり、リピート可能という部分が最大のネックになるだろうが、逆にそれさえ確保できれば、あとは全てクリアになる。餅は餅屋。私は連絡を待つことにした。
〜 1ヶ月後 〜
生地サンプルが届いた。来店時、数時間にわたり私の好みを伝えたこともあり、いきなり直球のボールが飛び込んできた。香川県で昔は作られていたが、生産管理が非常にコストがかかり、今はほとんど作られていない “讃岐コットン” とアメリカで生産管理された農場で育てられた “スーピマコットン” を混ぜた生地だった。本当に素晴らしい生地で物語もしっかりしている。これがリピートできるならいいかもしれないと伝えた。
が、数日後の連絡で振り出しに戻った。生地の生産量が非常に少なく、今回確保できても、次回以降のリピートが難しいということだった。それでは意味がない。
お気に入りのカットソーや下着は、同じものを買い直し続けられるというのが大切。以前も書いたが、生地が変われば着心地や縮率も変わる。肌に直接触れるカットソーなら尚更シビアになる。
それは、私が2年間作れていない最大の理由でもある。最高の素材で誰かのため、一着だけを作るというなら可能だが、お店に行けばいつでも買えるTシャツでありたい。希少価値だけをセールストークにするようなものでは意味がない。
〜 さらに1ヶ月後 〜
イケピーの上司から、改めて生地サンプルと生地の資料が送られてきた。
インドの年間生産量のわずか0.01%にも満たない量しか収穫することができない希少な超長綿であるスビンゴールドとアメリカ産高級原綿スーピマをブレンドしております。
(スビンゴールド50%,スーピマ50%) 20単糸2本引き揃えで新潟県で紡績をしオリジナル糸を開発しました。
紡績後、大阪のニット工場で編み立てをしております。
原料の良さを最大限に活かした、しなやかでなめらかな風合いと、上品な光沢感を引き出したこだわりのコットン素材です。
高級コットンの王様ともいえる、スビンゴールドとスーピマコットンのハイブリッド。さらに生産農場や紡績、編み立て、全ての物語がクリアになる素材。
申し分なく最高の素材である。ただ、素材のコストが高く、2年間も諦めていた前回の素材より生地単価は高額だった。
悩んだ末、私は得意技を発動した。
『やるしかない!』
実際、2年間私もさまざまな工場に話を持っていったが、最低ロットが数百枚というのが当たり前の世界。生産ロットを限界まで抑えてくれたのは、イケピーが店の良さを伝えてくれたおかげでもある。
「今後もリピートし続けるのでお願いします!」
私は再生産を決めた。今回リリースするTシャツもニット同様、素材の正当性を証明した専用タグをつけることが可能だというので用意してもらった。
〜 仲間たちの想い〜
先日紹介したニットから、私が作る洋服の首元には小さな刺繍タグをつけることにした。私自身はタグなど必要ないというタイプ。
邪魔なら躊躇なく取り外している。
ただ、仲間たちから、「自分たちが応援しているブランドだと周りに教えたいから小さくてもいいからタグをつけてほしい」そう言われた。みんなの気持ちを実現すべく、最小かつバランスの良い大きさのタグを制作した。
肌触り、質感はもちろん、裏返しても素晴らしく美しい。
洗濯表記とともにつけた小さなサイズタグにも刺繍で「MADE IN JAPAN」と記載した。流石にここまで細かい部分をこなしてくれるのは日本生産ならではだろう。
〜 リリース準備 〜
こうぞ紙と呼ばれるクワ科の植物から作られる和紙でラッピング。洋服の保存には適した紙なのでテープなどは使わない。洋服棚の棚板やタンスの下に使用すると湿気を取りカビ対策として再利用できる。
今回のTONYの生地も、以前紹介したニット “Kimberly” 同様に特殊な素材を使った。
(詳細は前回のブログを読んで欲しい)
これは、紡績を行ってくれた新潟の工場が、極上の原綿をかけ合わせてオリジナルレシピで作った素材であるということを証明するもの。これ以上のモノを探すのは難しいと思えるほど工場も力を入れて作った素材なのだろう。
実際私が何も言っていないうちから「専用タグも作っています」と説明があった。
私のブランドの商品を手にする人もチームの一員であり、できる限り作り手と同じ情報を共有すべきだと思っている私からすれば、このタグが付いているだけでさらに伝えやすくなる。非常に重要なパーツである。
〜 リリース 〜
「ただのTシャツにそこまでこだわらなくてもいいじゃん」
確かにそうかもしれない。でも「縁の下の〜」という言葉があるように、洋服を着るうえで土台となるカットソーや下着こそ、一番こだわって良い部分ではないかと考えている。肌との距離が一番近いこういうアイテムだからこそ、徹底的に良いものを永く使って欲しい。決して価格は安くないが、高級フレンチひとり分でどこまでも極上を堪能できる。それって「最高の贅沢」ではなかろうか。
アイテム的に消耗品であることに違いないが、私の計算では、毎日着用し続けても3年間は成長を続けてくれるTシャツ。仮にボロボロになったら、ぜひ、パジャマや部屋着にして欲しい。この素材が持つポテンシャルを考えれば吸水性は10年先でも変わらないだろう。
「最高の贅沢」セカンドステージである。
商品のクオリティー、この発言もすべて、責任は生み出した私にある。だからこそ強く言える。
これ以上のものは作れません!